石黒賢(撮影・弦巻勝)
石黒賢(撮影・弦巻勝)

 俳優というのは、監督からの指示を凌駕するパフォーマンスを本番で出さないと、もう次はない仕事だと思っているんです。今回出演させてもらった映画『狼 ラストスタントマン』で描かれたスタントマンの世界も、その点は通じるものがあると思いましたね。

 スタントマンって”体が資本”の“裏方”って呼ばれる人たちで、俳優の代わりに危険なシーンを見せなくちゃいけない。自分の顔が表に出るわけじゃない中でモチベーションを保ち続けるのはすごく大変なことだと思うんです。

 今作で元スタントマンの役で出演されている、現役スタントマンの髙橋昌志さんと話をしていると、彼の中ではどういうスタントを見せるか、という明確なビジョンがあって、それは監督がイメージしている動きの常に二段階くらい上をいっているんです。それこそがプロフェッショナルなんだ、と痛感しましたね。

 昨今のCGで何でも見せられる時代において、危険なシーンをわざわざスタントマンが命を張って見せることはなくなってくる。そのうちスタントマンはいなくなっちゃうーー映画の中でもそんなセリフがあったけど、そういった危機感とか、自分がこの先、社会に必要とされるのか、といった不安は、職種に限らず、映画を見てくれた誰もが共感してもらえるところだと思っています。

 そうした点で考えると、デビューから40年近く俳優をさせてもらっている僕は、本当に幸運ですね。

 僕の俳優人生は17歳で主演したドラマ『青が散る』(TBS系)で始まったけど、そもそもは父(元プロテニスプレーヤー・石黒修氏)から番組のプロデューサーを紹介されたのがきっかけでした。それまではずっとテニスをやっていて、僕のレベルじゃプロは厳しいと思っていた頃でした。当時の僕はすごく好奇心が強くて、ドラマってなんか面白そうだな、そんな思いで引き受けたのを覚えています(笑)。

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