■井出智香恵が語る夫婦秘話
66年に少女漫画誌『りぼん』でデビューし、『羅刹の家』などのヒット作で知られる漫画家の井出智香恵氏は、こう語る。
「憧れていた奥様の牧美也子先生にかわいがっていただいたご縁で、松本先生とも何度もパーティや酒席をご一緒させていただきました。松本先生は九州男児とは思えない、穏やかで優しい方。牧先生が3つ年上の姉さん女房でしたから、お姉さんと弟のような仲の良さが印象に残っています」
『男おいどん』が人気を博していた時期、井出氏は松本さんから意外な言葉を聞いたという。
「サルマタケがウケていましたが、“女性は、ああいう汚い男のパンツなんて嫌じゃない?”と聞かれたんです。松本先生は紳士的な方でしたから、男くさい世界を女性読者がどう感じるか、気になったんでしょうね」
■宇宙戦艦ヤマトや宇宙海賊キャプテンハーロックが大ヒット
70年代半ば以降、松本さんは宇宙を舞台にしたSFファンタジーの世界を描き、さらに多くのファンを獲得していく。
「制作に関わったアニメ『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの大ヒットにより、連載漫画の『宇宙海賊キャプテンハーロック』や『銀河鉄道999』もアニメ化され、松本零士ブームがピークに達しました。人間の強さや弱さ、社会の不条理などが物語に織り込まれており、大人からも熱い支持を得ました」(前出の漫画編集者)
SL列車が宇宙空間を走る『銀河鉄道999』は、小倉時代に見た原風景が投影されていたという。
「自宅の長屋脇に鹿児島本線が通っていたそうです。そこを蒸気機関車が夜の関門海峡へと駆け抜ける光景が、“星の海に飛び込むようだった”と、松本さん本人が語っています」(前同)
前出の井出氏は、それとは異なる『999』誕生秘話を聞いたことがあった。
「ある日、娘さんとお風呂に入っているとき、“お空を飛ぶ列車に乗りたい”と言われ、『999』の着想が生まれたとおっしゃっていました。きっと、いくつかの要素が重なり、あの壮大な物語が生まれたんでしょう。松本先生は、漫画家の枠に収まりきらない、創作者としての才能にあふれていました」
創作の宇宙を走り抜けた偉大なる巨匠に、合掌。