■僕のこういった生き方は、渥美清さんをずっと見てきたからかもしれません
役者のは、テクニックじゃなくて、表現力で聞かせる歌なんです。だから20〜30人くらいの前でなら、うまく歌える。ところが、コンサートホールで2000人の前で歌えるかというと、無理。顔の表情が見えないところでは、役者は聴かせる歌が歌えないんですよ。もちろん、できる役者もまれにいるけど、僕にはできませんね。
役者としては、本当にたくさんの作品をやらせてもらいました。1本1本が無我夢中で、だからこそ1本1本を思い返すことはあまりないんです。一生懸命にやり終えたら、次の作品に向かってきたからね。
尊敬する監督、素晴らしい俳優の方々とたくさん仕事をさせてもらってきました。でも、そんな方々に自分から近づいていくようなことはしないように心がけて……いや違うな、心がけるということをしないようにしてきました。ややこしいけど(笑)。
影響を受けたいと思った方はたくさんいますよ。たとえば、志村けんさんは大好きな俳優さんの一人ですが、一度もお話をしたことがありません。高倉健さんとも、映画『八甲田山』の撮影で3年間くらいご一緒しましたが、僕のほうから話しかけることはしませんでした。
僕のこういった生き方は、渥美清さんをずっと見てきたからかもしれません。渥美さんは仕事とプライベートの間にキッチリと線を引く方で、亡くなったときに、仕事関係者が誰もご自宅を知らなかったというのは有名な話です。
僕は渥美さんほど分けているわけではありませんけど、何ごとも自然でいたいとは思っています。
健康のことにしたって、そう。自分の体の弱いところは知っているけど、自然に任せています。「健康法」なんかやったらダメ。なるようになる。自分は運の強い人間だと信じているんです。
言ってみれば、きっと“わがままに生きている”ってことだよね。これからもそうやって年を重ねていきたいと思っています。
前田吟(まえだ・ぎん)
1944年2月21日生まれ。山口県出身。1964年に俳優デビュー。1969年公開の映画『男はつらいよ』に出演。以降、シリーズ50作すべてに出演する。その他、NHK大河ドラマ、連続テレビ小説をはじめ、数多くの映画やドラマで活躍している。
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