■初めて会った左團次丈はとにかくカッコよかった

 実は一度だけ、『週刊大衆』の取材で、左團次丈にインタビューするという光栄に浴したことがある。

 2016年7月末の、暑い日の真っ昼間だった。私は『週刊大衆』の老け顔の編集者と、重鎮のカメラマンの3人で、まだ再建して3年の歌舞伎座の楽屋に左團次丈を訪れた。会社から木挽町までの移動で汗だくになっている我々だったが、左團次丈は胸元に白いチーフを差した水色の麻のジャケットとベスト、広く襟を開いた白いシャツに真っ白なスラックスという出で立ちで、汗ひとつかかず座っていた。

 その時点でもう後期高齢者に達していたはずの左團次丈だったが、梨園屈指の長身をかがめることなく、背筋をピンと伸ばして座布団に座る素顔の彼を見て、「26歳も年下のカミさんをもらうのは、こういう人なんだなぁ」と感嘆した覚えがある。とにかくカッコよかったのだ。

 インタビューでの左團次丈は「泰然自若」というのがピッタリくるような落ち着いた雰囲気で、ときどき真顔でジョークを飛ばし、それがまた本人の人柄もあって大層おかしかった。

 初舞台は東京劇場(東劇)だったことや、当時、「子どもの楽屋の親玉」だった先代の中村錦之助(後の萬屋錦之介)・嘉葎雄兄弟に連れられてタチの悪いイタズラをさんざん行ったこと、若い頃、菊五郎劇団で、市村羽左衛門丈や二代目の尾上松緑丈ほか先達から「寄ってたかって芝居を教わった」ことなど、歌舞伎ファンにはたまらない話をたくさんしてくれた。

 インタビューの前年に、尾上菊五郎丈と共演した『夕顔棚』という演目がとても楽しくて良かった、と伝えたところ、「おや、そうでしたか」と、ほんの一瞬だけ相好を崩したのが忘れられない。

 小さい頃から菊五郎劇団でともに育ってきた、いわば幼なじみの菊五郎丈との共演は評判がよかったのか、この演目は2021年にも同じ2人で再演されており、またこの6月にも舞台にかけられるはずだった。楽しみにしていたファンも多かったはずだ。

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