■ボールを呼び込んで左翼席へ
流した打球でも、このように、ものすごいスピードで2階席へと到達する理由は、バッティングスタイルにあると、新井氏は話す。
「大谷はボールを呼び込んで打つタイプ。体の近くでボールを捉える分、アウトコースはレフト、真ん中はセンター、インコースはライト方向に打球が散らばり、そこに、あのパワーですから、どの方向でもスタンドまで届いてしまいます。このあたりは、ほとんどの本塁打が引っ張りだった松井秀喜と違う点ですね」
いくら日本人離れしたパワーを有しているとはいえ、バットの芯で捉えなければ、本塁打を打つことはできない。その技術に関しても、「大谷は緩いカーブを本塁打にすることも多いですが、これはインサイドアウトの軌道でスイングできている証拠。下手なバッターだと、自打球になってしまいます」(前同)
打撃フォームでいえば、大谷は右足を上げない「ノーステップ打法」にしているため、動きが小さくなる分、ミスショットせず打てているという。
大リーグ評論家の福島良一氏は、大谷が今季、進化した部分として、“ゾーンの拡大”を挙げる。
「大谷が今季放った24本塁打のうち、5本がストライクゾーンを外れた球。少々のボール球でも、本塁打にしてしまうんです」
これには、打席内での考え方が大きく作用している。
「大谷は、想定していない球でも“ホームランにしよう”と、意識的に打球に角度をつけようとしている。これがイチローなら、とっさに“野手がいないところに打とう”となる。大谷は、自分の長所が、長打を打つことだと理解しているんでしょう」(新井氏)
そして、同じ失敗を繰り返さないのが大谷の強み。
「6月19 日のロイヤルズ戦は、メジャー通算200勝以上を挙げているザック・グリンキーが相手。2打席目にカーブで空振り三振に打ち取られましたが、続く3打席目は、同じようなカーブを見事に捉え、第24号本塁打を放っています」(福島氏)
メジャー最強打者へ進化した大谷。そのオーラは相手投手を飲み込んでいる。
「6月13~16日に行われたレンジャーズとの4連戦では、7つの四球を選んでいます。それだけ、相手投手が警戒しており、慎重になるあまり、逆に甘い球も増えているんです」(前同)
二刀流でフル回転している大谷にとって、コンディションを維持することが最重要。疲労回復のため、大谷の平均睡眠時間は10~12時間ともいわれている。
「成長ホルモンは運動時と睡眠時、空腹時に、よく分泌されます。睡眠時間が長いとそれだけ空腹になるので、ダブルで効果が期待できます。人より成長ホルモンがよく出るので、彼の体は疲れにくく、かつ、強靭な肉体を作れるわけです」(高林氏)
心技体そろった大谷の快進撃は、これからも続く。