『寅次郎恋やつれ』で吉永小百合さんと再会し

 過度に観光地化されていない、ひなびた場所の風景こそ、旅情をかき立てるのだろう。

「例えば、『寅次郎恋やつれ』(74年)で吉永小百合さんと再会する島根県の津和野なんかは、その典型です。自然の中に適度な人の匂いと、ぬくもりがある。行ったことのない人も、どこか懐かしさを感じるでしょう」(映画ライター)

 寅さんの足は主に公共の交通機関である。特にローカル線で、のんびり移動するシーンは味わい深い。

さりげなく映る鉄道、雄大な自然

「例えば、『寅次郎真実一路』(84年)の筑波鉄道・筑波線など、今では廃線になった鉄道が、いくつも出てきます。また、力強い蒸気機関車が映る場面も多い。映画の中に、失われた昭和の風景があるんです」(前同)

 また、さりげなく映し出される雄大な自然は、作品に奥行きを与える。

「オホーツク海、太平洋、日本海、東シナ海と、日本列島を囲む多様な海の情景を堪能できます」(同)

 山岳ガイドが本業である高野氏は山にも着目する。

「『寅次郎夢枕』(72年)で、現在の山梨県北杜市のシーンがあって、駒ケ岳がド~ンと映るんです。それが、とても印象的です」

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