「見たんですよ。早朝に3匹のカッパが残飯をあさっているところを。わずか3メートルの距離ですから、見間違うわけがありません……」
衝撃の情報が編集部にもたらされたのは、7月初旬のことだった。

こうした"オカルト的目撃談"は編集部にときどき舞い込んでくるが、どれも眉唾モノ。
だが、今回の情報提供者は警視庁元刑事の北芝健氏なのだ。

現在は、大学院で講師(犯罪学)を務めるなど、捜査の"プロ中のプロ"である氏が言うのだから無視できない。

目撃場所は東京・高田馬場。
駅近くの神田川付近で、日本を代表する伝説の妖怪を目撃したと言う。

「昨年の春、まだ薄暗い早朝でした。その日は駅前の居酒屋で飲み、帰りに遭遇しました。酔っていたわけではありません。だって、私はほとんど酒を飲めませんから」(北芝氏=以下同)

体長は1メートルほどで濁った緑色。
全身がヌメり、体毛はない。
体型は人間に近いが、手がやや長め。
頭部は小さく、首が短めというから、北芝氏はハッキリと"未知なる生物"をとらえていた。

「ただ、カッパの特徴である頭頂部のお皿は見えなかったですね。あと、手足の水かきも確認できませんでした。見たのは一瞬ではありません。10秒くらいは目視できましたから」
ここまで詳細な情報は、そう耳にするものではない。

そもそも東京には"カッパ伝説"が多い。
「台東区の河童寺には治水工事をカッパが手伝ったという言い伝えがあります。江戸は水はけが悪く、水路も多かったので、隅田川や深川をはじめ、東京にはさまざまな伝説が残っています」(郷土史研究家)
これは検証する価値が十分にあるのではないか……。

記者は北芝氏の証言に基づき、日の出から6時近くまで神田川周辺を3日間にわたり捜索したが、カッパの存在は確認できなかった。

「何曜日に取材しましたか?さすがにカッパも人間を恐れるでしょうから、週末はあまり現れないと思います。それにゴミ出しが集中する朝でないと……」
北芝氏に報告すると、そう返答があった。

確かに取材日は、土曜、日曜、木曜と、朝帰りの酔客も多く、ゴミの量も少なかったのだ。

「火曜がいいですね。月曜夜は飲食店の客が少ないわりに週末のゴミもたまっています。私も行きましょう」
ということで、ある火曜日に北芝氏に同行してもらい、カッパを見た場所を一緒に回ってもらった。

1.駅から徒歩5分ほどの東京富士大学付近
2.駅前の飲食店が集中する早稲田通りの路地

1は木の多い神田川沿いで、カッパの保護色となる緑が多いため生息しやすい。
出入りできる大きな下水管も多い。
2は川から残飯をあさりに行きやすく、朝方の路地は人もまばら。

北芝氏は2の目撃地点を指差しながら語る。
「突如、3匹のカッパが視界に飛び込んできたんです。しかも1匹と一瞬、目が合った。小さい目でしたが、白目と黒目があり、目をパチリとさせました」

そして、北芝氏は路地の陰からもう1匹が発したと思われる声を聞いたという。
「ゴミをあさったあと、確かに3匹がその声の方向に注意を払いました。そう、震えるような声でした」

北芝氏は「ウェェェーー」と高い声を小さく上げ、喉を片手の甲で小刻みに叩く。
音声によるカッパの意思伝達方法を再現したのだ。

「それから4匹目を目視しようと路地裏をのぞいたんですが、姿はなかった。その間に3匹も姿を消してしまったんです」

記者と北芝氏は1、2を中心に探し回るものの、時間がたつばかりで緑色の妖怪はなかなか現れない。

いつしかJR山の手線も走り出し、通勤者の姿も多くなっている。
ついにタイムリミットか、と思いきや……。

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