サッカーマンガなら『キャプテン翼』、バスケなら『SLAM DUNK』で決まり と言えるかもしれないが、こと野球マンガに関しては400以上もあるほど作品数が多すぎて、コレというのが選べない。

今回は、1つに絞るのは無理と判断し、読者の声と専門家の意見を基に、本誌がベスト9を勝手に選定。異論は認めません!

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「野球マンガといったらコレ」(飲ですよ食店員= 30代)
と多くの読者に支持されたのが、お馴染みの『ドカベン』(秋田書店)。



現在も連載中と、まさに野球マンガ界の王様だ。

とはいうものの、『ドカベン』のいったい何がスゴいのか。マンガ評論家のツクイヨシヒサ氏に解説してもらおう。
「野球の面白いところが集まっているんです。選手たちに一長一短があって、里中は気が強いけど、炎天下でバテバテになったりする。殿馬は何でもできそうだけど、岩鬼みたいなことはできない。だけど彼らが揃うと、他チームは勝てないという説得力がある。それって、野球の面白さなわけです」

それまで野球マンガの主人公といだえば投手ったが、山田太郎は捕手。「日本の野球は捕手ありき」という価値観があるのは、『ドカベン』のげおかと言っても過言ではなく、あの古田敦也氏(元ヤクルト)も影響を大きく受けたという。
「野球を語るうえでONを外せないように、『ドカベン』なくして野球マンガを語れませんね」(ツクイ氏)

続いてはコミックス全78巻、「これを読んで育った」(広告代理店勤務= 20代)と読者に支持された『MAJOR』(小学館)。



このマンガがほかと違うところは、主人公の成長過程が長きにわたって描かれている点。
「リトルリーグ、中学、高校、プロ、メジャーとカテゴリーごとに順繰りやっているんですよ。しかも主人公の茂野吾郎は、投手だったのに、最後は打者に転向もしていますし」(ツクイ氏)

5歳から始まり、最終話では34歳にまでなっていた吾郎。主人公一人の半生を、ここまできちんと描き切った作品は、『MAJOR』をおいてほかにない。
「ほかのマンガのおいしいところが揃っている。いわば幕の内弁当みたいなものです。あれこれ読む時間がない人は、これさえ読んでしまえば、ほぼすべての野球マンガの要素を網羅できると思います」(ツクイ氏)

そんな『MAJOR』と比較すると、対照的なのが『ストッパー毒島』(談講社)。



「主人公の毒島大広が、どんなふうに育って、どんな選手かがわからないまま、プロに入るところから始まるんです」(ツクイ氏)

そこから、作者が「プロ野球もので唯一ペナントを描けたマンガ」と話すように、ペナントレースを追いかける。全12巻と短いながら、熱狂的なファンが多いのが特徴だ。
「球場の雰囲気がカラッとしていて、メジャーの野球を見ているような感覚です。毒島の投球フォームもメジャーリーガーですからね。松坂大輔(メッツ)が高校時代に呼んでいたことで話題になりましたが、メジャー志向の強い松坂が読んでいたというのは、納得できますよね」(ツクイ氏)

スポーツニュース番組の「プロ野球選手が選んだ野球マンガ」という企画で、見事1位に輝いたのが、『名門!第三野球部』(講談社)だ。



野球名門校の三軍が、努力を積み重ねて一軍を倒し、甲子園に挑戦するという"超熱血もの"。30代後半の読者から、大きく支持を受けた。
「登場人物がほとんどブサイク(笑)。主人公の檜あすなろが、努力して頑張ることにより、仲間ができ、ライバルが現れる。甲子園決勝も再試合になったり、わかりやすい作品ですよね」(ツクイ氏)

ヘッドスライディングをしたり、フェンスに激突して骨が折れるなど、本当に泥臭い。
「これがプロ野球選手に選ばれたのが、最初は意外だったんですけど、上に行く人こそ努力の大切さがわかるってことなんでしょうね。凡人が読むと、逆に"こんな泥臭いことあるの!?"ってファンタジーになっちゃうんですけどね」(ツクイ氏)

そんな熱血作品と正反対なのが、『H2』(小学館)。



「あだち充といえば『タッチ』だけど、あれはどっちかって言うと恋愛マンガ。『H2』は野球マンガと言っていい」(メーカー勤務=20代)

高校野球と恋愛模様を描いた青春マンガ。当時、ヒロインに惚れる中高生が続出した。
「あだち先生の野球マンガの完成形。野球、女、友情と、青春が詰まっています。とにかく汗臭さがない。試合中なのに、水着のカットとか入ってくるし。ただ、そういう、あだち先生の"間"が、日本人には合うと思うんです」(ツクイ氏)

そんな『H2』の中で一番の名シーンと言われるのが、主人公・国見比呂の陰に隠れた実力者の木根が、甲子園準々決勝で国見を休ませるために登板し、完投した場面。脇役も光るのが、あだちマンガだ。

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