"地獄のような痛みの後でポックリ"なんてゴメンだ。このシグナルに注意しよう。心臓事故は未然に防げる!

先月29日、大相撲出身の人気タレント・龍虎(りゅうこ)さん(73)が亡くなった。

「家族旅行中、静岡県掛川市の事任(ことのまま)八幡宮の階段で倒れたんです。271段ある階段を上っている途中、龍虎さんは"疲れたから、ゆっくり歩く"と言ったそうです。なかなか追いついてこないので、気になった奥さんが戻ってみると、倒れていたということでした」(芸能記者)

すぐに病院へ搬送されたが、意識は戻らなかったという。死因は心筋梗塞だった。

心臓疾患に詳しい大阪樟蔭(しょういん)女子大学の石蔵文信教授に、この病気を解説してもらった。

「心臓の外側には冠動脈という動脈が3本張りついていて心臓を動かしています。この血管が完全に詰まって塞がる(梗塞(こうそく))と、心臓の筋肉(心筋(しんきん))へ血液を送れなくなり、激痛を感じます。血が行かないということは酸素が運べないということですから、血流が回復しないと心筋は壊死(えし)に至ります。これが心筋梗塞です」

心筋梗塞の前の段階が狭心症だ。

「狭心症で冠動脈が狭窄(きょうさく)している患者さんが激しい運動をすると、心臓が酸素を確保できなくなって胸痛が起こります。3分ほどジッとしていると症状が改善する場合もありますが、日頃から注意が必要な病気です。放っておくと心筋梗塞を起こしますからね」(前同)

龍虎さんは過去に、くも膜下出血を患ったことがあり、健康には人一倍気をつけていたはず。それでも、つい無理をしてしまったのだろうか。

心筋梗塞を起こしたら大変だ。九死に一生を得た人たちに聞いた。

「火を飲み込んだような苦しみでした」(67歳=ラーメン店店主)

「まるで、コンクリートの塊を胸に押し付けられたような痛みでした」(56歳=会社員)

心筋梗塞は、いかに早く病院にたどり着けるかで生死が分かれるが、生存率は高くない。

「昔は心筋梗塞になったら、3人に1人は死ぬと言われていました。今は10人に1人に、その割合が下がっていますが、それは病院で亡くなる患者さんの率です。病院に運び込まれる前に突然死する方はカウントされていません。実は、そういう方が増えているんです」(前出・石蔵教授)

心筋梗塞の悲劇を未然に防ぐ方法はないものか。

駅などの階段を上がっていて動悸が激しくなり、息切れする人は狭心症か、その予備軍で、こうしたケースはわかりやすい。

ところが、心筋梗塞の危険が近づくと、心臓から離れた、体の意外な部位が痛むことがある。

整形外科の看護師さんに聞いた。

「背中や腕、それから足などに痛みを感じて、うちの病院に通っていた患者さんがいらっしゃったんです。いつも湿布剤だけをもらってお帰りになっていました。でも良くならなくて……。あとで心筋梗塞を起こされて、やっとその予兆だったとわかりました。私も知識では知っていましたが、実際に、そういうことがあるんだなと驚きました」

胸の痛みなら心臓が悪いのだろうと素人でもわかるが、まさか背中や腕、足の痛みの原因が心臓だとは思わないだろう。

医療ジャーナリストの牧潤二氏が、こう語る。

「それを放散痛と言います。そのほか、指先がしびれるというのも心筋梗塞の放散痛の一種です。特に多いのは、奥歯の痛み。意外に思われるかもしれませんが、奥歯の痛みは心筋梗塞の予兆です。虫歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)もないのに奥歯が痛い場合、歯科ではなく、心臓の専門医にかかったほうがいいかもしれません。あと、胃のむかつきとか吐き気も、心筋梗塞の予兆である場合があります」

放散痛のメカニズムはよくわかっていないが、神経は体のあちこちを走っており、複雑に絡みあっているから、脳が勘違いしてしまう――つまり、心臓の不調を他の部位の痛みと取り違えてしまうことがある、ということのようだ。

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