性行為とは何かを残すこと!

――この作品を手がけようと思った理由は何ですか?

杉野 もともとは今から6年ほど前に、自分の表現方法に悩んでいる歌手が、バリで性的に解放される物語を考えていたんです。というのも、その頃の私は"表現者"として壁にぶつかっていたんですね。そんなとき、漠然ながらも、バリに行けば、何か打破できるのではないかという憧れがあったんです。

――どうしてバリだったんですか?

杉野 とても美しく神秘的な国だと思うんです。今回の映画でも、バリ島の美しい景色をはじめ、ガムラン(東南アジアの民族音楽)ケチャ(バリ島で行われる男声合唱による呪術的な踊り)などのシーンも沢山取り入れています。それらがすべて、当時悩んでいた私の心を揺さぶる何かがあったのです。

――杉野さんの心の葛藤を投影した作品なんですね。

杉野 はい。だから最初は私がヒロインを演じようと思っていたのですが、監督と兼任はやはり難しいと思って。そうこうしているうちに、(『欲動』で主演を務めた)三津谷葉子ちゃんと知り合って、"彼女でバリの作品を撮ってみたい"と思い、ストーリーも変更しました。

――杉野さんから見た三津谷さんの魅力とは?

杉野 素晴らしい女優さんです。葉子ちゃんと出会って、"彼女だったら、私の描きたい女性像を、繊細かつ激しく演じてくれる"と……彼女の中にまだ表に出ていない激しさが潜んでいると思いました。撮影前から葉子ちゃんとは一心同体で作りました。お嫁さんにしたいぐらい、好きですね(笑)。

――もしや、禁忌の関係?

杉野 いやいや、そんなわけないじゃないですか!

――とはいえ、『欲動』では、三津谷さんのダイナミックなベッドシーンがあることでも話題になっていますね。

杉野 少し話がそれるかもしれませんが、最近の日本映画は性描写が"男目線"というか、その行為だけを描いている感じがするんですね。それは女性の"性"が軽く扱われてすぎているような感じがして、そういう作品にはしたくなかったんですね。

――女性監督が考える、女性の性とは?

杉野 女性にとっては"何かを残す"こと、そして"何かを託す"ことが、性行為に結びついていると思うんですね。特に映画というジャンルは娯楽であると同時に、人生であったり"生きている意味"なんかも考えさせてくれると思うんです。それは性描写にしても同じで、そういうことをちゃんと伝えられるシーンにしようと……。わかっていただけますか?(笑)

――いえいえ。わかりますよ。単にエロチックなシーンを観たいだけなら、AVでいいわけですからね。

杉野 アハハ。そういうことなのかなぁ(笑)
 

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