人生に役立つ勝負師の作法 武豊
騎手だからわかる「馬の適正」について


その馬のことを一番理解しているのは、調教師の先生や厩務員の方たちです。
一頭一頭、性格や癖を把握し、芝、ダートの適性を見極め、その馬に合った距離を絞り込んでいく――日本のレース体系は、GⅠに向けて、それぞれステップレースが組まれているので、どのレースに出走させるかによって、その後の結果に大きく影響してきます。

ただ、その一方で一緒にレースで戦った騎手にしかわからない、いや、騎手だからこそ感じる手応え、可能性というのもあります。

――ずっと芝のレースに使ってきたけど、この馬にはむしろダートのほうが合っているんじゃないか。
――走り方は短距離向きだけど、手応えからすると、もう少し距離が伸びてもいけそうだ。

そのレースの勝敗にかかわらず、乗っていて感じたことは、レース後、調教師の先生に伝えるようにしています。2007年のGⅠ「高松宮記念」を制したスズカフェニックスも、その中の一頭でした。
デビュー戦、2戦目はダート1400メートル。3戦目のダート1200メートルで初勝利を挙げると、その後は芝の1600メートルから2000メートルのレースに出走し、12戦して1着5回、2着1回、3着4回。すべて掲示板を確保するという、常に安定した成績を残していました。
このまま中距離路線で賞金を積み重ね、近い将来、GⅠの舞台に――僕自身もそう思っていました。

もしかすると、もしかするかも!?
そう感じたのは、07年1月27日に行われたGⅢ「東京新聞杯」(芝1600メートル)を勝ったときです。順当なら、次は芝1800メートルのGⅡ「中山記念」です。

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