人生に役立つ勝負師の作法 武豊
「伝説」が生まれた89年の桜花賞


今年は、例年より速いスピードで桜前線が北上中。
この号が発売されるころには、新潟競馬場、福島競馬場のあたりでも、咲き始めているかもしれません。
この桜前線とともに競馬もいよいよ、本格的な春シーズンに突入します。今週末には、ファンの方も、厩舎スタッフも、馬主さんも、もちろん僕たち騎手も含め、すべての競馬関係者がわくわくするクラシック戦線がスタート。その第1弾として、3歳の女の子たちが世代ナンバー1の座を目指してしのぎを削る「桜花賞」が行われます。

僕がこのレースを制したのは、1989年のシャダイカグラから始まって、ベガ(92年)、オグリローマン(94年)、ファレノプシス(98年)、ダンスインザムード(04年)の5度。どのレースも、馬の息づかいやライバルたちの位置取りも含め、スタートからゴールまで、ハッキリと思い出すことができます。

この中で印象に残っているレースをひとつだけ挙げろと言われたら……スタートでの出遅れが、いつの間にか、「武豊はわざと出遅れたんだ」とささやかれはじめ、桜花賞史上に残る伝説となってしまったシャダイカグラでの勝利でしょう。

以前、本誌で掲載された伊集院静先生との対談でもお話しましたが、スタートで大きく出遅れたときに上がった悲鳴とため息は、はっきりと僕の耳にも届いていました。あの日のシャダイカグラは、単勝2.2倍の圧倒的な1番人気。2人に1人が彼女の馬券を握りしめていたとすれば……約4万人の悲鳴とため息です。
もちろんあのときは、僕自身も、「あーっ!」と叫んでいました。でも、叫んでいましたが、パドック、返し馬で、異常なほどイレ込んでいたときから、半分くらいは、予想できていたことでもありました。

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