真っ先に派遣される精強部隊

それにしても何故、安倍政権は安保法案提出、成立へと前のめりに急ぐのだろうか?
「日本の安全保障環境が大きく変わったからです。たとえば、北朝鮮は核・弾道ミサイルを開発。中国は軍拡一直線で、領土拡張の野心を隠そうともしません。また、極東アジアが緊迫状態にあるというのに、米国は国防費を削減。これまで米国が主導していた極東の秩序維持を、今後は日米共同でやっていく方針に転換したことも大きい」(軍事評論家の神浦元彰氏)

安倍首相もこのことは再三強調しており、
「北朝鮮の数百発もの弾道ミサイルは、日本の大半を射程に入れている。国籍不明機に対する自衛隊機のスクランブル(緊急発進)の回数は、10年前と比べて7倍に増えた。これが現実です。日米同盟が完全に機能することを世界に発信することで抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなります」
と演説している。

とはいえ、法改正に伴い、その活動が広範で多様化する自衛隊の思いは複雑かもしれない。なぜなら、殉職者、あるいは"戦死者"が出る可能性が改正前に比べて大きく高まるからだ。そこで、"安倍安保"を前に、現場自衛官たちの本音を直撃した。
「自分は命令が出たら行きます。それが仕事ですから、政治のことはあまり考えたことがありませんね。そこへ行くと危険だとか、死ぬかもしれないということは考えません。与えられた任務を完遂するのみです。周りの同僚たちも皆、同じ思いだと思いますよ」(20代陸自・普通科連隊員)

一方、30代の海自幹部は、
「隊員が命がけで任務に励むには"大義名分"が不可欠です。"なんで派遣されるんだろう?"とか、"本当に日本のためになるのかな?"と、心が揺れている状態は一番危険だからです」
と、"大義"の重要性を語る。こうした"道理"や"やりがい"の必要性を主張する自衛官は多かった。
「僕らは、お金が欲しいから自衛隊にいるわけではありません。国民のコンセンサスが得られて、"国際社会における日本の役割を果たすため"と説明がきちんとされれば、名誉なことですし、喜んで任務に励みます」(同海自幹部)

40代の陸自幹部は、安保法案が改正されてもまだ不安が残ると指摘する。
「法改正がされても、まだ国際標準ではないので不安があります。改正は"現状よりもまし"という程度。ですから、法改正後、最初に危険地域に派遣されるのは、練度の高い部隊になるでしょうね。おそらく習志野の第一空挺団と特殊作戦群、宇都宮の中央即応連隊が中心でしょう。練度の低い部隊を派遣して、事故や死傷者が出ると政権が吹っ飛びかねませんから」

陸自最精強の呼び声高い第一空挺団や特殊作戦群は、極めて難易度の高いミッションも完遂する能力を持つとされる。
「こうした部隊の士気は極めて高いですね。危険な任務だからといって辞退する者も皆無でしょう。実は、対テロ戦のエキスパート特殊作戦群は、イラクのサマワや南スーダンといった危険地域への派遣時には、必ず随行しています。特戦群の隊員は、現地での不測の事態に備え、一般の隊員に対して、指導を行っていたはずです」(元陸自レンジャー助教)

第一空挺団の隊員の中には、すでに"戦地"に思いを馳せる猛者もいる。
「一般の隊員より、幹部のほうが複雑な気持ちでしょうね。幹部は危機に直面した際、現場指揮官として"部下を殺す非情な覚悟と、部下を生かす最大限の努力"という相反する決断を常に求められていますからね。1名の犠牲で部隊が救えるのなら、その人間に"死んでくれ!"と言わなければならないんです」(20代の空挺団隊員)

自衛隊では部隊ごと、年1回の身上調査があるという。
「アンケートで"海外での活動を希望する/しない/どちらでもよい"を選ばされます。"希望する"と答えた者から選抜されることになります。殉職する可能性があるため、"志願している"ことを派遣の前提にしたいからでしょう」(前出の元レンジャー助教)

  1. 1
  2. 2
  3. 3