最高で約3000万円の配当
裁判で世間の注目を集めたことで、勤めていた会社も辞めることになった。
「さらに、当時、生まれて間もない子どももいて、一生かかっても払いきれない10億円という税額に、妻の精神状態も不安定になってしまいました」
だが、前述のように今年3月、「外れ馬券は経費」と最高裁に認められ、税額は大幅に減額された。
「これからも延滞税などの不足分を納めなければなりませんが、10億円納付するのとは、状況も心境も違います。ようやく、人生を前向きに歩いていけると、妻とも将来のことを話し合うことができました。裁判中は、全国の競馬ファンの方々から応援のメールなどが寄せられて、励みになりました」
まさに激動の5年を過ごしてきた卍氏。ただ、やはり気になるのは、いかにして、競馬で1億5000万円もの利益を稼いだのかということだろう。
「私は、勝ち馬を予想しないんです。競馬を始めた頃は、競走馬の能力を数値化したコンピ指数や、レースの走破タイムを数値化したスピード指数などを使って買い目を出していたんですが、あるとき、競馬は強い馬が必ず勝つとは限らないということに気がついたんです」
勝ち馬を予想するのが競馬の基本のはずだが、いったい、いかなる基準で馬券を買っていたのか。
「過小評価されている馬を買うことに目覚めました。つまり、実力があるのに、それに見合うだけの人気となっていない馬を選ぶ。過去に、同じレースに出走していた馬が2頭いた場合、着順が良かった馬が、悪かった馬に比べて人気になりすぎているのではないかと考えたんです」
たしかに、そんな馬を判別できれば、馬券的妙味は大きそうだ。
「そこで、前走の着順や着差などの情報に基づいて、各馬に点数をつけるようにしました。たとえば、近走で勝ち馬と0.5秒差以内ならプラス1点、0.2秒差なら、さらにプラス1点といった具合に計算していき、合計点数が高い馬の馬券を買っていったんです」
ただ、それだけの情報を分析するとなると、膨大な時間が必要となることは想像に難くない。実際、卍氏は過去の競馬新聞など膨大な量のデータを集め、一日中、図書館にこもって研究に励んでいたという。
「それでも、馬券収支はややプラス程度でした。その後、有料予想サイトを使いましたが、収支がマイナスになるにつれて、競馬から遠ざかるようになっていました。ところが、『馬王』という競馬ソフトと出会ったことが状況を一変させました。このソフトを使えば、それまで行っていた各馬に点数をつけて買い目を決定するのを、予めルールとして設定しておきさえすればソフトが自動的にやってくれるのです」
卍氏は、これを機に、競馬資金として100万円を用意し、これがなくなったら、馬券購入をやめるというルールを決めて、競馬ソフトを使った馬券の購入が始まった。
その卍氏の05年(裁判で争われた期間は07年からの3年だが、卍氏は競馬ソフトで購入した馬券の記録をすべて残している)からの馬券での収支は、浮き沈みはあるが、右肩上がりの線を描いている。
「06年に残高の92%、07年に69%、08年には92%を失うスランプの時期がありました。特に、一番負けたレースは、同じ年の6月29日の阪神11レースで、635万4000円の馬券を購入し、払戻金が0円のときもありました」
ただ、長期的に見るとプラスになっていったという。
「収支がプラスにならなければ、予想ファクターを適宜、修正していきました。過去に一番勝ったレースでは、08年8月3日の新潟9レースで、295万円1400円分の馬券を購入して、2839万7770円の払戻金を手にしました」
なんと、1レースで約2500万円もの利益を手にしたというのだから、驚くほかない。
しかも、このような高額配当は、なにも1回、2回だけではないのだ。