このような戦歴から、翁長知事は“無敗の翁長”の異名を持ち、「今夏の参院選でも、沖縄・北方担当大臣の島尻安伊子議員(沖縄選出)が彼の前に屈しようとしています。島尻氏は2月9日の記者会見で、北方領土の一つである『歯舞(はぼまい)』の読み方が分からず、“ハボ……、えー、何だっけ?”と言葉を詰まらせ、担当大臣としての最大懸案事項の一つが頭に入っていないことを全国に露呈。もともと厳しかった彼女の選挙情勢は、さらに厳しくなりました」(地元関係者)

 現職閣僚の落選となれば、政権にはこのうえない痛手。改憲など夢の話だが、自民には勝利をもたらす隠し玉がある。それが進次郎氏だ。先の1月24日に投開票れた沖縄県宜野湾(さぎのわん)市の市長選。同市は普天間飛行場を抱えるだけに、「政府=移設派」と「沖縄県=反対派」との“代理戦争”に発展。菅義偉官房長官が「宜野湾市長選は必ず勝利する。それも大勝してみせる」と豪語するほどだった。その自信の根拠こそが、進次郎氏の現地投入である。

 同氏を長年取材してきたノンフィクションライターの常井健一氏が、こう語る。「沖縄での選挙は独特の風習があります。選挙戦の追い込みの段階になると“Vロード”といって、各陣営の運動員が幹線道路に出て、候補者ののぼりを持って歩道に列を作るのです。特に無党派層の有権者たちは、この光景を見てどちらが盛り上がっているのかを意識し、投票するといわれています。そして、進次郎氏が地元入りしたのが、まさに投票4日前でした」

 地元農協を隣に見る、市民会館前に集まった大勢の市民を前に、進次郎氏はまず「農協の皆さん、自民党農林部会長の小泉進次郎です」と切り出した。「ここでまず、“農協の票”をがっちり掴んだのではないでしょうか」(常井氏) 続けて、進次郎氏は「20年間止まった歯車を前に回そう」と訴えた。「市内にある普天間基地の移設先を名護市辺野古に決定したのは、父親の純一郎氏の内閣時代。“普天間の危険除去は私の使命だ”というメッセージを有権者に送ったのでしょう」(常井氏)

 移転先はともかく、基地の移設は宜野湾市民の念願。その気持ちを汲んだのだ。盛り上がる応援演説中、地元の小学生らが進次郎氏に近寄るハプニングが発生したのだが、その瞬間、彼は、「この子たちは私を、この前『下町ロケット』(TBS系ドラマ)に出た人と間違えているかもしれない」と、兄で俳優の小泉孝太郎氏を引き合いに出し、会場を爆笑の渦に変えた。

「(進次郎氏の演説で)陣営の運動員の士気が大きく上がったことは間違いないでしょう。それがVロードの盛り上がりにつながり、接戦の選挙を制したのだと思います」(常井氏) そう、自民不毛の地で、政府の支援を受けた佐喜真淳氏が、翁長知事が推す候補者を大差で退けたのだ。このキーマンぶりには、「さすがに安倍首相も舌を巻いた」(自民党中堅議員)

 さらに、前出の鈴木氏は進次郎氏の今の立場を、次のように賞賛する。「そもそも、応援演説で壇上に立ち、候補者をアピールするのは幹事長の仕事。選挙の票読みをする裏の仕事はともかく、今や、幹事長の“表の仕事”は、進次郎が一身に背負っているという空気感はありますよ」

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