これに対して、最も近い噴火である1707年の「宝永噴火」の場合、溶岩流は発生せず、火山礫や火山灰まじりの噴煙が成層圏まで上昇し、偏西風に乗って関東全域に火山礫や火山灰の雨を降らせた。多くの火山学者は、次に富士山が噴火した際も、宝永噴火と同じように火山灰を吹き上げる噴火をすると予測している。もし、そうなった場合、どのような事態が引き起こされるのか。「本格的なIT時代に入ってから、世界の大都市が大量の火山灰に襲われたという例は一つもありません。もし、今の東京に宝永噴火並みの火山灰が降り注いだとしたら、あらゆる電子機器が使い物にならなくなるでしょうね」(長尾氏)

 こうなると、都市機能は全滅。大パニックとなることは必至だ。さらに懸念されるのが物流の麻痺だろう。首都圏から東海地方にかけての鉄道、高速道路、空港などが機能しなくなったら、日本全体の流通は、すべてストップしてしまう。「人的被害ももちろんですが、富士山噴火による経済的被害は計り知れません。こうした事態を想定して、今のうちから、首都機能を分散しておく必要があるでしょうね」(長尾氏) 現在、政府は地方創生の一環として、中央省庁の地方移転を推進しているが、その裏には災害に備える意味合いもあるのだろうか。

 一方、木村氏は、次に富士山が噴火するなら、宝永噴火のような火山灰を撒き散らす噴火ではなく、貞観噴火のように溶岩流を伴う噴火である公算が強いと言う。しかも、多くの学者が懸念する「山の南側」ではなく、「北側」に噴火すると見ている。「富士山は、このところ山頂から噴火するということはほとんどなく、山の北側の噴火と南側の噴火を交互に繰り返しています。前回の宝永噴火は南側が噴火したため、東海道や江戸に甚大な被害をもたらしましたが、次は貞観噴火と同じように、山の北側が噴火するのではないかと推定されます」(木村氏)

 いずれにしても、過去の事例から見て、富士山の噴火が大規模なものになることは間違いないだろう。地震にしろ、火山にしろ、「危機」が迫っていることは間違いないようだ。もし“その時”が、木村氏の唱えるように、すぐそこに迫っているとしたら、2020年の東京五輪どころではないかもしれない。我々も、万が一の時の備えをしておくに越したことはないだろう。

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