体の不調を治そうとマッサージを受けたのに、まさに“揉んだり蹴ったり”。いったい、なぜ、こんなことになったのか?「実は最近、資格や免許もない素人同然の人が施術をする店が増えているんですよ」 こう説明するのは、さいたま市の武井鍼灸院の武井重樹院長だ。

 ちなみに、鍼灸治療院の看板を掲げる武井院長は≪はり師・きゅう師≫の国家資格(免許)を持っている。また、マッサージの場合は≪あん摩マッサージ指圧師≫、接骨院(整骨院)なら≪柔道整復師≫の国家資格が必要になる。ところが、医療ジャーナリストの牧潤二さんによると「現状は、こうした資格を持っていなくても手技による“治療”ができる店は簡単に開業できる」という。「マッサージは、もともとフランスで生まれた手技療法で、厳密に言えば≪あん摩マッサージ指圧師≫の資格を持つ人しかできないのですが、実際はタイ式マッサージやオイルマッサージなどの名称で営業しているんです。いってみれば、無資格治療なんです」(前同)

 こうした店には資格認定証や修了証を掲げているころもあるが、「しょせんは民間資格」(同)だ。これは、カイロプラクティックや整体も同じ。前述した3つ以外は、法制度の観点からすると“無資格治療”ということになる。「私たち鍼灸師や、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師は3~4年、専門学校や大学に通い、骨格や筋肉の構造や経絡などについて基礎から学びます。ところが、いわゆる街のマッサージ屋の中にはこうした基礎医学を学んだり、研修をすることなく施術している所があるのです」(武井院長)

 あるマッサージチェーン店の従業員募集サイトの要項を見ると、こんなことが書いてある。≪マッサージなどの経験がまったくない素人の方も心配いりません。18日間の研修を受けると(業界団体が発行する)修了証が授与され、その後、店舗に配属されて働くことができます≫ たった18日間研修しただけで、客の体を扱うのだから恐ろしい。「マッサージ店は開業するとき、ベッドを揃えればいいだけで、飲食店のように食材などのコストもかかりません。いってみれば、誰でも簡単に開業できるビジネスになっているのです」(武井院長)

 こんな状況だから事故が起きるのも当然といえる。国民生活センターにも「施術中に肋骨を折った」といった相談が少なからず寄せられている。柔道整復師の資格を持つ、東京・大塚にあるタンタン整骨院の小林敬和院長が苦笑気味に話す。「肋骨の中でも下にある第11肋骨と第12肋骨は構造上、非常にもろく、ここを下手にマッサージすると骨折する危険があります。私たち柔道整復師は、こうした体の構造を熟知しているので強く圧迫しないのですが、1~2か月の研修で施術する人は、こんなことも知らないから怖いですよ」 自分の体に施術する人がきちんとした知識に基づいて施術しているのか、どんな資格を持っているのかを確認することが、安心への第一歩と言えよう。

 最近は銭湯や温泉、そして家庭にも電気マッサージ器が普及している。だが、これも必ずしも安全とは言えない。今年1月、国民生活センターはマッサージ器の相談や危害情報を公開したのだが、2010年から昨年11月までの約5年間で、253件の危害情報が寄せられたという。

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