彼に常識なんて通用しない。この世界の命運を握るべく進撃する“ぶっ壊し男”に誰もが震え上がっている!
「メキシコとの国境に万里の長城を築く」
「日本が攻撃を受けたら、俺たちはただちに助けに行かなきゃならない。でも、俺たちが攻撃されても、日本は俺たちを助けなくてもいいんだ。日米同盟はフェアじゃない!」
「あの顔(ライバル候補だったカーリー・フィオリーナ氏)を見てみろ。誰がアレに投票するんだ!?」
これら数々の暴言により各方面から大バッシングを浴びながらも、第45代アメリカ合衆国大統領の座に向かって爆走し続ける男、それが共和党のドナルド・トランプ氏(69)だ。前述の発言からも分かる通り、このまま彼が大統領へと突き進めば、我が国にも大きな影響が出るのは必至。トランプ氏を知ることは、我々の未来への備えにもなるのだ。
不動産王の億万長者として日本でも知名度が高いトランプ氏。選挙戦の序盤では「しょせんは金持ちが気まぐれで出ているだけ」とキワモノ扱いされていた。「そこが完全な読み違い。トランプは前回の大統領選(2012年)のときから、共和党集会で彼の政策が書かれたチラシを配っていたんです。当時から作戦を練っていたんでしょうね。思いつきで立候補したわけではないし、頭がおかしいわけでは決してない」 そう語るのは、米国共和党全米委員会顧問でアジア担当を務めるあえば直道氏だ。昨夏に開催された第1回候補者討論会の時点から、トランプ氏に対する「熱狂」は始まっていたと証言する。「VIP席の視線は冷ややかでしたが、スタンド席の人たちは大熱狂。これは一過性の現象なんかではないと感じました」(あえば氏=以下同)
そのとき、スタンド席に陣取っていたのは低所得者層の人々。彼らにとってトランプ氏は、まさに救世主なのだ。「オバマが受け入れた不法移民によってアメリカ人の雇用が奪われています。ニューヨークも4~5年前とは違って、至る所にホームレスがあふれている。80年代の危険なニューヨークと似てきた感じがします。オバマはアメリカ経済を成長させられなかった。会社の経営者ならクビですよ」
経済を立て直し、偉大なアメリカを復活させる。それが彼の政策の中核。あえば氏は「アメリカ・ナンバーワン主義」と名付ける。「米国民は、“アメリカは今、世界からナメられている”という思いがあり、イライラ感が募っている。そこへトランプが“メキシコ人は出ていきやがれ!”と言い放ち、喝采を浴びた。今回トランプが大統領になれなくても、こうした流れは止められないでしょう」
14年の中間選挙で共和党は、オバマ氏の民主党に勝利し、上下両院で多数派を占めた。その背景には、ヒスパニック系をはじめとするマイノリティの地道な取り込みがあったのだが、トランプの過激発言は共和党が進めた政策の逆をいったものとも言える。「共和党自体も変革の最中ですが、トランプはスピードが速すぎるし、ともすれば共和党そのものをぶっ壊しかねない。その危機感が党内のエスタブリッシュメント(既成特権階層)にはあるわけです。彼は言うことを聞かないですから」
党をぶっ壊す。このフレーズは、かつての“小泉劇場”を連想させるのだが、「壊し屋という点では似ていますが、小泉さんの党改革は中途半端で終わってしまった。アメリカは直接民主主義ですし、トランプのほうが“ダイナマイト力”は大きいでしょうね」 日本にとっての不安は、仮にトランプ大統領が誕生した場合、そのダイナマイト力によって日本も破壊されてしまうのではないか、ということ。日米同盟の見直し発言だけでなく、円安やTPPについても批判の色を強めている。だが、あえば氏は「むしろ、これは日本にとっての大きなチャンス」と力説する。