まず、3月16日、日本に招かれたノーベル経済学賞受賞者の米コロンビア大学・スティグリッツ教授が消費増税への慎重論をブチ上げた。続いて22日には、同じくノーベル経済学賞受賞者のニューヨーク市立大学・クルーグマン教授が増税先送りを日本政府に訴えてトドメを刺したのだ。「増税を延期するかどうかは、最終的に首相の判断になりますが、その前に経済学者ら第三者から延期や凍結などの意見を引き出し、“アリバイ作り”をしておく必要があったのです」(前出の鈴木氏)

 この安倍首相の心変わりに「内心、カチンときているのが麻生財相」(自民党関係者)だという。今年に入り、政府与党内に先送り論が台頭するや、麻生氏は、ことあるごとに、「(安倍首相の考えと)私や財務省の考え方に隔たりはない」と牽制。返す刀でスティグリッツ氏の増税延期の提言には、「私どもとは見解が違う」と、真っ先に噛みついた。“8%派”の安倍首相か、“10%派”の麻生財務大臣か――。消費税増税導入を巡り、仁義なきバトルが勃発しているのだ。

 だが、そもそも安倍首相は増税派だったはずである。国の借金返済のためには消費税の増税は至上命題。しかし、増税にはデフレや不景気が付き物だ。それを防ぐための大規模な経済対策がアベノミクスだったはずだったのだが、「安倍首相を焚きつけているのは参院自民党や執行部。彼らの増税見送りの根拠とは、日本経済の失速です」(前出の自民党関係者)

 実際に、昨年10~12月期の国内総生産(GDP)がマイナス成長に転落。5月にも発表される1~3月期のGDP速報値も2期連続のマイナスとなる可能性がささやかれている。今や、国民の7割が不況という意識を持っている――それがアベノミクスの現状だ。それが安倍政権の支持率低下にもつながっている。つまり、「アベノミクスの失敗」が人気凋落の原因なのだ。増税を先送りしたら、それを認めたことになる安倍首相だが、ここで選挙に負けては最大の目標である改憲を成し遂げることはできない――。首相にとっても、8%据え置きは苦肉の策と言っていいだろう。

 しかし、そこで黙ってはいられない人たちもいる。なんとしてでも税率を上げなくては困る面々――それが「麻生財務相の背後にいる財務官僚たち」(前同)だ。「G20(20か国財相・中央銀行総裁会議)やG7、さらには財務官僚が出向するIMF(国際通貨基金)では、国の財政健全化のために増税はあってしかるべきという理論が支配しています。そのことから、財務官僚は日本の国家財政が先進国の中でも最悪に属し、財政健全化のために増税は必要というロジックを打ち立てています」(鈴木氏)

 彼らは、そのロジックを振りかざし、自民党の有力議員に相次ぎ接触。鈴木氏が取材した与党の大物議員も、そうやって財務官僚に口説かれたという。

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