東大卒がズラリと並んだエリート官僚陣に理屈で説得されたら、政治家とて太刀打ちできない。麻生氏も財務官僚に丸め込まれた一人だろう。元法政大学教授の五十嵐仁氏は言う。「その財務省の代弁者である麻生氏は、軽減税率導入の際にも“小売業までシステムを浸透させるのは手間がかかる”と抵抗したくらいですからね」

 軽減税率は、消費税増税に伴い、低所得者への配慮から導入が検討されていたもの。ところが、麻生氏はかつて、軽減税率の財源約1兆円に充てるため、将来的に消費税率を10%から引き上げる可能性について「論理上は十分ありうると思う」と発言したほどだ。これでは低所得者の負担は増すばかり。軽減税率など、なんの意味もなくなってしまう。確かに国家財政の立て直しは必要だ。しかし、財務官僚たちが財政立て直しを金科玉条(きんかぎょくじょう)に掲げる裏には、こんな事情があるという。「安倍政権は“経産省内閣”といわれ、“最強官庁”を自認してきた財務省の影響力が低下してきています。そこで今回、消費増税が流れたら、前回の見送りに続き“連敗”となり、権威は地に落ちます」(元財務官僚) なんともはや、財政健全化のため、いくら理屈をこねようと、“省益”を優先しているというのだ。

 さらには、こんな話も。「これは財務省に限った話ではありませんが、役人の天下り先は今でも無尽蔵に増えています。かつて民主党政権下で事業仕分けが行われた際は、20兆円もの行政のムダがあるとも指摘されていました。これらのすべてが本当にムダかどうかは疑問の余地も残りますが、これが切り崩されないように増税派の政治家を一人でも多く懐柔したいという腹が官僚たちにあるのは間違いないでしょう」(ベテラン政治記者)

 権力保持の次は、“既得権益”の確保。それが、財務官僚が増税したがる“本音”だというのだ。そもそも、消費税の増税は、社会保障の充実とセットで行う前提で、12年に自民・公明・民主の三党合意によって決定したはず。「ところが、消費税だけが独り歩きし、社会保障充実の制度設計や年間工程が不明瞭なまま、現在に至っています」(前出の五十嵐氏)

 つまり、社会保障との一体改革は置き去りに、ただただ消費税率だけが引き上げられているわけだ。それどころか、「安倍内閣が発足した12年の翌年に、社会保障プログラム法が成立していますが、これによって、70歳以上の医療費は跳ね上り、また、介護保険の要介護1と2を対象から外すことも検討されています」(鈴木氏) これでは、社会保障との一体改革が、増税するための名目にすぎないことを暴露したようなものだ。

 選挙のために増税先送りというアメをバラ撒く首相も首相なら、私利私欲に走る官僚の「狗(いぬ)」になり下がった財務相も財務相! まさに、国民そっちのけの“仁義”なきバトルだ。どちらが勝つにせよ、国民を欺き、贅をむさぼる政治家たちには、次の選挙で鉄槌が下ることだろう。

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