冒頭のS氏は薫容疑者との出会いを、こう振り返る。「出会ったのは14年5月でした。私が30年来通っている横浜の日ノ出町にある居酒屋に彼女が、女性の友人と2人で来ていたんです。それから何度か、店で会ううちに互いの連絡先を交換する関係になったんです」 その後、彼女から連絡があり、2人だけで保土ヶ谷区の居酒屋で飲むことに。「ほどなく、彼女が過去に出版していた著書を2冊渡され、橋本の婚約者だったことを知りました」(S氏)

 薫容疑者に好意を抱いたS氏は、その年のお盆休みには早くも、薫容疑者を静岡県にある自身の実家に「将来、一緒になりたい人」として連れて行き、その後も、彼女はS氏の実家へたびたび訪れていたという。「3回目に来たときは彼女自ら、“Sさんはすごくいい人なので、下の大学生の娘が卒業し、落ち着いたら(S氏と)結婚するつもり”と私に言っていたんです」

 こう証言するのは、実家に暮らすS氏の妹。「実は兄が過去に結婚していた女性は、母と打ち解けられず離婚しました。しかし、薫さんは母と一緒に海岸を散歩して、カニを取ったり、一緒に買い物に行き、食事も作るなど仲が良かったので、母は本当に喜んでいました」(前同) しかし、妹は昨年1月に薫容疑者から送られてきたメールで、彼女に不信感を持つようになったという。「(薫容疑者が橋本氏との死別後、再婚したと思われる)前の若い男は暴力がひどく、それがトラウマとなっているのに、兄に無理やり関係を迫られたという内容でした。それで、婚約者と言いながら、それまで一度も肉体関係がないことを知ったんです」(同)

 実は、それまでに実家に4度滞在した際も、S氏は薫容疑者を連れて来ただけで、一度も一緒に実家に泊まっていなかったという。2人の関係の亀裂が決定的になったのは、昨年4月。S氏は体を壊してしまい、約3か月間入院することになったのだが、婚約者だったはずの薫容疑者は一度も見舞いに来なかったのだ。「何度、電話をかけても出なかったんです。やっと、メールが来たんですが、差出人は、彼女の妹の名前で“姉は、ICU(集中治療室)で治療している娘の看病につきっきりで出られない”とのことでした」(S氏)

 しかし、S氏から話を聞いた彼の友人が、彼女の職場に確認すると、S氏の入院中も、いつもと変わらぬように出勤していたという。ここまでの話だけなら、男と女のはかない恋愛話で済むのだが、それだけで済まないのは、相当な金がS氏から薫容疑者の手に渡っていたからだ。「私は、彼女の家賃など800万円近くのお金を渡していました。そのうち300万円は、彼女に借用書を書いてもらっていたんです。私が入院して、実家に仕送りができなくなってしまったので、貸している300万円の中から毎月、母親に仕送りしてほしいとお願いしたんですが、先ほど言ったメールが送られてきただけで、仕送りは一切してくれなかった」(S氏)

 不信感を募らせたS氏が彼の友人に頼んで、薫容疑者の家を訪れてもらうと、「彼女は、翌週の火曜日に弁護士を連れて、返済についての話をしに行くと、友人に伝えたんですが、結局、そのまま失踪してしまったんです」(前同)

 いよいよ男女間の金銭トラブルで済まなくなり、昨夏、S氏は神奈川県警に被害届を提出したという。「被害届は受理され、捜査が始まると、次々に彼女の“嘘”が明らかになっていきました。実家の妹もカンカンで、彼女との結婚を楽しみにしていた母はショックで体調を崩してしまいました」(同)

 S氏によれば、薫容疑者が詐欺容疑に問われたのは4件で、計約160万円。その内訳は(1)娘の出産費用約20万円(2)娘の学費約10万円(3)遺産相続に関わる費用約80万円(4)父親の葬儀代約50万円というもの。「遺産相続に関しては、彼女の父親が亡くなり、後妻の子どもにも相続権があるが、ある程度の額を現金で支払えば相続放棄するというので、その後妻の子どもに払うお金を出してほしいと、お願いされました。遺産相続すれば、数千万円はする土地がもらえるので、それでお金を返済すると説明されていたんですが、そもそも父親が亡くなっていなかった」(同)

 父親の葬儀代の要求も虚偽のものだった。「葬儀代は、妹の旦那の口座に振り込んでほしいと彼女から言われたので、“オガタ”という人に50万円を振り込みました。しかし、この男性は、彼女が借金をしていた別の男性で、その返済のためのお金だったんです」(同)

 その他にも、娘が出産するので何かと金がかかると相談され、S氏は約20万円を渡していたというが、出産の事実はなかったというのだ。薫容疑者は、逮捕後に弁護士を通して、金を返す意思はある、結婚するつもりもあったと話しているというが、本稿締め切りの3月31日時点では、S氏への返済はなされていないという。

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