稀勢の里が横綱にふさわしくないと論陣を張る諸氏の共通した意見は、やはり、メンタルの弱さによるもの。しかし、その一方で、横綱にふさわしいと主張する諸氏は、稀勢の里の才能を高く評価している。

「中学時代、野球部に所属していた彼は、ヘッドスライディングをした際に右手を骨折。その間、左手だけで生活し、重たい物も左手で持っていたといいます。つまり、そこで左が鍛えられ“両刀使い”になったわけです。現在、彼の左からの攻めは天下一品です」(稀勢の里後援会の関係者)

 相撲ファンで鳴るラジオパーソナリティの大野勢太郎氏が、稀勢の里の“左”について、こんな秘話を明かしてくれた。「現在の玉ノ井親方が現役大関の栃東だった頃の話です。彼が稀勢の里関とたまたま酒席で顔を合わせ、当時まだ前頭上位だった稀勢の里に、直々にアドバイスしていたんです。これは異例中の異例の話ですよ。僕もその場に同席していて、ハッキリ覚えています。栃東関は、“左は大きな武器になる”“左を磨けば、俺の地位を越えられるかもしれん”と。それだけ稀勢の里の素質は素晴らしいということです」

 今場所2日目の栃煌山戦で見せた“横綱相撲”が、まさにそれ。大野氏がこう続ける。「左からのおっつけで相手の体を浮かせ、左を差して万全の体勢を作るのが稀勢の里の相撲。今年になって成績が安定しているのは、その自分の相撲が取れているからです。よく、相撲は心技体といいますが、技と体ではすでに横綱級。いつ横綱になってもおかしくありません」

 やはり課題は「心」の部分なのだ。それさえ兼ね備えることができれば、稀勢の里が“稀”代の横綱になることは間違いないだろう。この才能を開花させるには、どうしたら良いのだろうか。

「稀勢の里の強みの一つは開き直り。たとえば、去年の夏場所は、4日目から2連敗してしまいましたが、その後11日目まで連勝して2敗を守り、1敗の白鵬を追う立場で優勝争いに加わっています。重圧から解き放たれ、攻めの気持ちが出てからが強いんです」(若手の相撲記者)

 稀勢の里は大関になる前、殊勲賞を5回も受賞した“上位キラー”だった。特に2010年に白鵬の連勝記録を63でストップさせた一番は、誰もが鮮明に記憶するところである。つまり、ポジティブな気持ちで挑んだときの稀勢の里には、誰も手をつけることができないのだ。

 “横綱稀勢の里”が「アリ」か「ナシ」かの論争は、これからも続くだろう。だが、彼の気の持ちよう一つで、それが「大アリ」になるポテンシャルが秘められている。稀勢の里が覚醒するその日まで、我々も焦らず待とうではないか!

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