病気になって、実感したのは、人間っていつ死ぬかわからないんだなっていうこと。それまでは、ほとんどニートで、たまに働いたりとフラフラしていて、自分の好きなことを極めようとかってこともなかった。正社員になって、安定しなきゃいけないっていう気持ちと、好きなことをやりたいっていう気持ちの板挟みで、身動きが取れないまま、時間だけが過ぎていっていたんです。

 でも、くも膜下出血になって、いつ死ぬかわからないんだから、生きているうちに好きなことをやっておいた方が、すっきりするかなと思って、本格的に漫画を描き始めようと思ったんです。くも膜下出血になってなかったら、あのまま中途半端な生活のままだったかもしれません。だから、偉そうかもしれませんが、“人生に絶望するのは、『くも漫。』を読んでからでも遅くないですよ”ってことが伝われば、うれしいですね。

 死にかけたおかげで、好きな世界で仕事ができるようになったので、漫画は一生描き続けていきたいなと。自分でルールを決めているんです。オファーがこなくても、毎日4コマ漫画1本と、デッサンひとつ、その日のおもしろい出来事をメモすると。

 仕事はもらえる方が、もちろんいいんですが、そのルールだけは守って生きようと思っています。まあ、なんだかんだで、漫画を描くのが楽しいですからね。

撮影/弦巻 勝

中川学 なかがわ・まなぶ
1976年、北海道生まれ。大学卒業後、小中学校の臨時講師、シイタケの収穫など様々なアルバイトを経験。11年、漫画家志望の若者に格安で住居を提供するトキワ荘プロジェクトに応募して上京。コミックエッセイ『僕にはまだ友だちがいない』で単行本デビュー。最新作は、自身の失踪体験を綴ったコミックエッセイ『探さないでください』。また、『家電批評』にて『家電黙示録マナブ』を連載中。中川学先生が原作の映画『くも漫。』は2月4日より、新宿バルト9ほかにてロードショー。

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