現地からの報道は、首都であるカトマンズからのものばかりだった。本当に被害の大きい山岳地帯の様子はどこも報じていなかったので、2日、歩き続けてラプラックという震源地に近い村に行ったんです。

 通常なら、撮影して終わりなのですが、その村には救援隊も誰もいないので、僕がなんとかしなくてはっていう気持ちが芽生えてきたんです。その村を長いスパンで支援するには、どうしたらいいんだろうって考えた結果、映画にすれば、長期間、村に行けると考えて、今回公開される映画『世界でいちばん美しい村』を撮ることになったんです。

 ただ個人のドキュメンタリー映画というのは、映画ができるまで収入がないんです。驚きました。それだけではなく映画を撮り終えた後も、ものすごくお金も手間もかかる。嫁さんをはじめ本当にいろんな人に助けられながら完成にこぎつけました。

 今回の撮影で学んだのは、本当の幸せとはお金や物じゃないということ。地震ですべてを失っていながら、それでも人々は明るく前向きに生きていた。そこには家族の絆、苦楽をともに分かち合う共同体としての村、大自然と祈りがあった。

 本当の幸せとは何か、というテーマをこれからも映画や写真を通して追い続けていきたいですね。

撮影/弦巻 勝

石川梵 いしかわ・ぼん
1960年生まれ。10代の頃、日本将棋連盟奨励会に在籍し、棋士を目指すが、写真家に転身。AFP通信のカメラマンを経て、90年にフリーの写真家に。93年に『伊勢神宮、遷宮とその秘儀』、98年には、捕鯨の文化が残る村を写した『海人』で、日本写真協会新人賞を受賞。12年には『The Days After 東日本大震災の記憶』で、日本写真協会作家賞を受賞。現在も伊勢神宮の神事をはじめ、祈りをテーマにした撮影を世界各地で行っている。

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