師匠の田子ノ浦親方も、「もう一度ちゃんと調べる。本人は(巡業に)出たいだろうが、まずはしっかり治さないと」と語っており、“貴乃花の二の舞にならないか”という心配の声が上がるのも当然だろう。

 加えて、逆転優勝を成し遂げたことによって、稀勢の里は、これまで以上に無茶をする可能性もあるという。「ケガに耐えて、逆転優勝……日本人好みの美談でマスコミも騒ぎ立てますが、これによって、稀勢の里は今後、ケガをしても休場しづらい状況になってしまいました。ただでさえ、日本人唯一の横綱で、国民からの期待も大きい分、よほどのことがない限り、休めない」(前出の相撲関係者)

 我々の過剰な期待が、稀勢の里を潰してしまいかねないのだ。それだけではない。稀勢の里のケガが治ったとしても、まだまだ今回の代償は続くという。

「ちょっと言い方が厳しいですが、モンゴル勢のリベンジです。現在、横綱は4人で、稀勢の里を除けば、全員がモンゴル人力士。彼らにすれば、新たに生まれた日本人横綱が、過剰にもてはやされるのは、正直、面白くないでしょう」(スポーツ紙相撲記者)

 当然、夏場所では、ライバル心剥き出しで来ることは間違いないだろう。「彼らも横綱として大相撲界を引っ張ってきたという自負がある。稀勢の里の弱点を攻めてくる可能性も否めませんよ」(前同)

 ガチンコ相撲で鳴らした貴乃花も同様だった。「常に真っ向勝負だから、ケガも絶えなかった。稀勢の里にも同じ匂いを感じるだけに、心配です」(同)

 久々に誕生した日本人横綱も、このままでは流星のごとく、一瞬の輝きで消えていくかもしれない。だが、その一方で、「稀勢の里はそんなヤワな力士ではない」という声も多い。スポーツジャーナリストの大野勢太郎氏は、次のように語る。

「稀勢の里は体が大きいだけでなく、下半身が非常にしっかりしているんですね。これは、稀勢の里をスカウトした鳴門部屋・隆の里親方の指導の賜物と言えます。隆の里親方は、とにかく“四股を踏む”稽古を徹底的にやらせるんです。これは、相撲の基本です」

 四股踏みは地味だが、根気がなければ続かない過酷な稽古。嫌がる力士も多いというが、新横綱は違った。「稀勢の里は、愚直に粘り強く、四股を踏み続けていたんです。それによって体の土台がしっかりと作られ、強くなった。今まで大きなケガがなかったのも、基礎ができているからです」(前同)

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