騎乗依頼仲介者という言葉をご存じですか? 馬主さんや調教師の先生との間に入り、騎乗馬を調整してくれる方のことで、競馬サークル内ではエージェントと呼ばれています。この制度は大先輩、岡部幸雄さんがフリーになられたとき(1984年)に取り入れたもので、JRAが正式に認めたのは06年のことでした。じゃあ、それ以前はどうしていたのかというと――。

 競馬学校を卒業して厩舎に所属している間は、調教師の先生や先輩の後ろにくっついて、あれこれ、勉強できますが、フリーになるとすべてが自己責任。今のように携帯電話もない時代でしたから、自宅の電話に掛かってくるか、競馬場やトレセン、ときには牧場で直接会って約束を交わすというのが基本でした。

 競馬に限らず、どんな制度にもメリットとデメリットの両面があります。その中で、はじめは武田作十郎厩舎にお世話になり、騎手の根本……いい馬乗りとはどういうものなのかを教えていただき、先輩の河内洋騎手の背中を見てあれこれ勉強できたことは、ジョッキー武豊をカタチ作るうえで、とても大きな血肉となりました。

 これまで、4000を超える勝ち星を挙げてきましたが、そのひとつひとつの勝利が、“いい馬に乗せていただいている。馬に勝たせてもらっている”と心から思えるのは、そんな経験があるからだと思います。

 亡くなったメジロのオーナー、北野豊吉さんの悲願だった、父子3代による天皇賞制覇の夢を叶えてほしいという強い思いで依頼をされたメジロマックイーンとのコンビ結成。当時、競馬界を超えたブームを巻き起こしていたスーパーホース、オグリキャップへの騎乗依頼……いろいろありますが、最高に驚いたのは99年の夏……フランスのトップトレーナー、P・バリー調教師からいただいた一本の電話です。

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