人として生きて、自然に思うことや、感じたりすること、そのなかで“これをやりたい”ってことを見つけたいと思っています。僕は、産みの苦しみっていうのは感じないんですよ。だって、産もうとしていないっていうか、自分の中から出てきたものをやればいいだけですから。

 僕は、不足しているというか、満たされていない人、要するに映画を本当に必要としている人、そういう人たちに見てほしいなと思いながら、毎回、映画を撮っています。今回の『夜空はいつでも最高密度の青空だ』もそうです。

 最果タヒさんの詩集を映像化したんですが、彼女は今生きている若い人たちの、言葉にならないモヤモヤとした気分に触れようとしているんです。言葉というものを使って、言葉の傍らにあるものとか、裏側にあるものを見せようとしている。作中には、“死ぬ”とか“殺す”とか割と強い言葉が出てくるんですが、それを額面通りに受け取ってほしいわけじゃなくて、その言葉の傍らにあるものを感じてほしい。

 やっぱり、自分が何かを感じたり、思ったりして、それを誰かに言いたい。そのときに、その思いを届けられる映画が撮れるっていうのが、一番の理想なんです。監督としての価値がなくなったりお払い箱にされてしまったら、やりたくてもできない。だから、求められるところに、いたい。その上で、映画を撮っていきたいですね。

撮影/弦巻 勝

石井裕也 いしい・ゆうや
1983年6月21日、埼玉県生まれ。05年に大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』でPFFアワードグランプリを受賞。10年に『川の底からこんにちは』で商業映画デビューし、同作でブルーリボン監督賞を史上最年少で受賞。13年の『舟を編む』では日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。その後、『バンクーバーの朝日』などのヒット作を世に送り出している。

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