熊切和嘉(映画監督)「僕が描きたいのは、人のみっともない部分なんです」剥き出しを映し出す人間力の画像
熊切和嘉(映画監督)「僕が描きたいのは、人のみっともない部分なんです」剥き出しを映し出す人間力の画像

 映画って、その世界が無限な感じがするというか、すごく広がりがある。映画に映っていないところにも世界がある感じがするんです。そこが、好きなんですよね。

 その映画について、僕が世界で一番、理解しているって気持ちになったり、作り手の気持ちを僕が一番、わかっているなと思う時があるんです。そういう勘違いをできるのが、楽しいなって。まんまと作り手にのせられているんですけどね(笑)。

 とりあえず、映画を見れば、2時間は日常の悩みは忘れられますから。映画を見るのは好きですね。正直、撮るより、見るほうが好きって思うときがあるぐらい(笑)。クランクイン前は、特にそう思います。自分の一声で何十人といるスタッフを動かすわけですから、プレッシャーで、いつも怖くなります。十何年、映画を撮っていますけど、撮影前のナーバスな気持ちは、いまだに変わりません。

 とはいえ、いざ撮影が始まると、また違ったテンションになるんです。昂揚感というか、何も怖くなくなる瞬間とかあります。メガホンとか持ちたくなりますよ(笑)。まあ、実際には持ちませんけど(笑)。現場に入って、ベテラン俳優さんにビビっていたりしたら、何も進みませんから。

 結局、人前に立つとかそういうのが苦手なんです。そういうことばっかりを考えてしまうと、怖くなる。だけど、昔から映画は撮ってきたし、僕のなかでは一応得意といえる分野なので、最終的には、ただ自分の撮りたいものを撮ればいいんだ、とシンプルに考えれば気持ちが大きくなりますね。

 だから、俳優に結構、無茶なお願いもしちゃいますね。今回の映画『武曲 MUKOKU』は、主演が綾野剛くんと若手の村上虹郎くんなんですけど、2人が豪雨のなか、泥まみれになりながら決闘するシーンがあったんです。そのシーンを撮るときは、楽しかったですね。こんな目の前で綺麗な俳優たちをドロドロに汚せるって(笑)。2人は大変だったと思います。

 撮影期間が3週間くらいだったんですけど、僕は、一週間はこのシーンを撮り続けられると思っていましたから。映画のなかで汚していくのが、好きなんですよ。いつも、ちょっとやりすぎちゃうくらいなんですが、快感だなぁって(笑)。

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