昔、園子温監督とお酒をご一緒させてもらうことがよくあったんですが、“熊切は大人しい映画じゃなくて、もっと黒い映画を撮れ”って言われていました。結局、そうやってなりふりかまわないというか、人の感情が剥き出しになるような作品しか撮れないんです。エンタテインメントとはいえ、きれいごとだけが、並べられたような映画は撮れないんですよ。自分が、そのきれいごとを信じきれないんだと思います。

 僕が描きたいのは、人のみっともない部分なんです。僕自身も、胸を張っていえることではないですが、人間的にダメな部分がたくさんありますから。お酒を飲んで、後悔したことなんて数知れずです(笑)。朝起きたら、床に血痕があって、負傷していたり。“何があったんだろう?”って(笑)。

 そういうみっともないところを出さないとなって思います。生活していたら、色々と割り切れないところもあるじゃないですか。そのうまく言えない部分を映画というエンタテインメントとして、形にできたらなと思いながら撮っています。

 編集が、快感なんです。もちろんそれぞれのショットは自分で確認をしているんですが、そのバラバラだったものが一つに繋がると、また違った大きなうねりというか、“おお、こうなるんだ”みたいな感動があります。

 正直、3年に1本くらい撮れればいいんです。でも、撮ってないと、すぐに忘れられてしまいそうで、すごく不安になる。ヒット作を撮りたいとかは、あまり思わないんですが、映画がある限りは撮り続けていきたいですね。

撮影/弦巻 勝

熊切和嘉 くまきり・かずよし
1974年、北海道生まれ。98年に大阪芸術大学の卒業制作作品『鬼畜大宴会』がぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞。同作はベルリン国際映画祭パノラマ部門他、10カ国以上の国際映画祭に招待される。10年の『海炭市叙景』がシネマニラ国際映画祭グランプリ及び最優秀俳優賞をはじめ、ドーヴィルアジア映画祭審査員賞などを受賞。14年にも『私の男』でモスクワ国際映画祭最優秀作品賞と最優秀男優賞の二冠を達成し、毎日映画コンクール日本映画大賞も獲得するなど、国際的にも注目される映画監督。

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