大相撲春場所で狙うは連覇! 栃ノ心「力士である限り“上”を目指す」の画像
大相撲春場所で狙うは連覇! 栃ノ心「力士である限り“上”を目指す」の画像

 ケガを乗り越え、さらに強く逞しく復活した黒船力士。日本中が涙した大一番と今後の野望を語り尽くす!

 暴行事件に端を発する一連の騒動で、揺れに揺れた大相撲。そんな中、角界に明るい話題を提供したのが、初場所で平幕優勝を果たした栃ノ心(30)だ。191センチ、170キロの筋肉質の体型で、握力は90キロ以上。敢闘賞も3度受賞したが、2013年名古屋場所で負った右ヒザの負傷で4場所連続の休場。それによって、幕下下位まで番付を下げたこともあった。大ケガから4年半。今も右ヒザに大きなサポーターを巻きつつ、「奇跡の復活」を遂げた男に、初優勝の感動、春場所への思いを聞いた!

■白鵬も「力がついたね」と称賛

――あらためて初場所での初優勝おめでとうございます。続いて、2月の大相撲トーナメントでも優勝。ノリに乗っていますね。

栃ノ心(以下=栃) ありがとうございます。まさかトーナメントでも勝てるとは思っていなかったんですが、初場所で優勝したでしょう。みんな「栃ノ心は、どんな相撲を取るのかな?」って見ていますから、「しっかり相撲を取っていこう」と思っていました。3回戦では、これまで本場所で25回対戦して、一度も勝っていない白鵬関と当たったんですが、寄り切りで勝つことができた。花相撲だとはいえ、うれしかったね(笑)。トーナメントは1番勝つごとに賞金が出るんですが、白鵬関に勝って準決勝戦に進んだくらいから、「よし! 勝ちに行こう!」と気合いが入ったんですよ(笑)。

――白鵬戦は右四つがっぷりからの力強い相撲での勝利でした。白鵬関も「栃ノ心は、力がついたね」と称賛していましたね。

栃 ホントっすか(笑)? それはうれしいですね。そのあと、準決勝で隠岐の海関とあたって、決勝は玉鷲戦だったんですが、新十両昇進が一緒(08年初場所) の玉鷲関には負けたくなかった。彼も33歳にして、力を付けてきていますからね。そして、玉鷲関に勝って優勝して、表彰式では、ウチの師匠(春日野親方)から優勝トロフィーをいただいたことにも、感動しました。

――13年の大ケガによる休場で、一時は幕下まで陥落しましたが、見事な復活ですね。

栃 ケガは右ヒザの前十字じん帯の断裂だったんですが、今もじん帯はつながっていないんです。手術して入院しているときは、テレビで大相撲中継を見るたびに、「もう無理でしょ?」と辞めることばかり考えていましたし、番付も幕下55枚目まで下がってしまった。でも、退院して土俵に上がれるようになると、徐々に気持ちが前向きになっていったんですね。休場から8場所後に、幕内に返り咲いて、敢闘賞をいただいたときも、うれしかったなぁ。でも、昨年の初場所で同じ箇所を痛めてしまって、途中休場。相撲は体があってのこと。本当にケガは怖いと思います。これからも、うまくつきあっていくしかないんですけどね。

■大ケガからの見事な復活

――さて、初場所を振り返ってみたいと思います。4日目、高安関、5日目には豪栄道関と2大関を立て続けに破り、前半から好調さが際立っていましたね。

栃 そうですね。初場所は場所前から、(負傷した)右ヒザの調子がよかったんですよ。それが、好調の理由なんですが、実は昨年の秋からヒザの具合が思わしくなくて、10月の秋巡業は休場したんです。たまっていたヒザの水を病院で抜いて、ちょうどその期間は、春日野部屋の合宿があったので、ウォーキングしたりして、体は動かしていたんですが、九州場所に出られるかどうかも微妙だったんです。水を抜くとヒザの周りの筋肉が落ちてしまうので、不安もありましたし。なんとか九州場所は乗り切ったんですが、12月の冬巡業もあまり稽古ができなかった。ところが、1月の初場所が始まる1週間くらい前から、ヒザの動きがよくなってきたんです。

――少し不安から解放されたということですね。

栃 大きかったですね。それで6日目まで全勝でいって、7日目には同じく全勝の鶴竜関には負けてしまったけれど、波に乗っていけたんだと思います。

――9日目には165キロの御嶽海関を豪快な吊り出し。そして11日目、全勝の鶴竜関が敗れたために、1敗で横綱に並びます。

栃 今、振り返ってみると、この頃から優勝を意識していたのかもしれませんね。ヒザの調子を考えれば、初場所は勝ち越し、あわよくば10勝できればいいな、くらいに考えていたんです。11日目は宝富士戦だったんですが、彼は体が柔らかくて、私としてはやりづらい相手。私が四つになろうとすると、頭をつけて振りほどかれて、距離を取られます。その後、ようやくまわしを取った私が攻めたんですが、土俵際、際どい勝負になって物言いがついたんです。結果は軍配通り、私の勝ちになったんですが、あの激しい相撲で勝てたというのが、大きかった。次の日、鶴竜関が遠藤関に負けて、私が単独首位に立つんですが、正直、優勝のことを考えたらドキドキするから、考えたくないという気持ちでした(笑)。

――取り囲む報道陣が日々増えていく中で、「優勝を意識しない」というのは難しかったでしょうね。

栃 とにかく鶴竜関が負けるとか、そういうことに関係なく、「一日一番」と自分に言い聞かせていました。13日目は、このところ勢いが復活してきた逸ノ城関。彼は今、体重が220キロくらいありますからね。牛みたいに重いんですよ(笑)。

――そして、1敗を守り続けての14日目。勝てば優勝という大一番でしたね。

栃 (相手の)松鳳山の突っ張りは厳しかったですね。私も突っ張りで応戦したんですが、これにはワケがあるんです。この日の朝、稽古場で師匠に、「(松鳳山は)なかなかつかまらない力士だから、突っ張ってからつかまえろ」というアドバイスをいただいたんです。すぐに私の得意の四つに持ち込むな、ということなんですが、それを実践できたのが、勝利の理由です。

――千秋楽でも遠藤関に勝って、14勝1敗で初優勝。優勝インタビューで、「親方、おかみさん、春日野部屋の皆さん、日本の皆さん、私の国の皆さん、応援ありがとうございます!」と目を潤ませている姿は、感動的でした。

栃 いや~、もうね……。皆さんに感謝の気持ちしかないですよ。こんな日が来るとは思ってもいなかったですし、4年半前の大ケガのときは、心が折れかけていましたから……。

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