■「角界のニコラス・ケイジ」は料理が得意

 終始和やかに、しっかり目を見つめて質問に答えてくれる栃ノ心。そのブルーグレーの瞳、端正な顔立ちから、ニックネームは「角界のニコラス・ケイジ」。ジョージア出身の力士としては、黒海(元小結=引退)、臥牙丸(現十両)らがいるが、幕内最高優勝を果たしたのは、栃ノ心だけ。そのため、母国・ジョージアから、すでに決まっていた名誉観光大使の任命に加えて、日本の国民栄誉賞に匹敵する勲章が栃ノ心に贈られることが決まった。

――優勝に加えて、素晴しい称号がまた増えますね。

栃 いえいえ、うれしいと思う反面、私などにはもったいない賞だと思っています。母国・ジョージアは日本からだいぶ遠いし、大相撲のスケジュール上、長い期間、日本を離れることができないので、なかなか帰れないんですよ。

――15年に幼馴染のニノ夫人と結婚。17年11月には長女・アナスタシアちゃんが生まれましたが、会えているんですか?

栃 それが、まだ対面していないんです。会いたくて、会いたくてたまらないんですが、まだ4か月の赤ちゃんですから、十何時間も飛行機に乗せて、日本に連れてくることはできません。だから、今はもっぱらテレビ電話で毎日大きくなっていく様子を見ているんです。妻と私、どっちに似てるのかは、まだ分からない(笑)。たぶん、ジョージアに帰れるのは6月くらいになるんじゃないかなぁ……。

――早く会えるといいですね。ところで栃ノ心関は、都内の自宅で自炊もするそうですね。

栃 料理は得意ですよ(笑)。昼は部屋でチャンコ鍋を食べますが、関取になると、夜ゴハンは自由です。外食することもあるんですが、気分転換も兼ねて、ジョージア料理を作ります。得意料理は、“チャホフビリ”という鶏肉、トマト、玉ネギをジョージアのスパイスを入れて煮込んだ料理。ジョージアから、いろいろな種類のハーブを持って来てるので、それを効かせます。おふくろの味ですね。そして、もちろん赤ワインも(笑)。

――以前、飲んだジョージア産のワインは最高においしかったです!

栃 でしょ!? 私の実家はワインの醸造の仕事をしているんですが、地元では、10軒中7軒の家で、自家製ワインを作っています。それと、ワインを絞った後のぶどうのカスで作る“チャチャ”というお酒が、またおいしい! ウォッカみたいな感じでアルコール度数が50度くらいあるから、これはけっこう酔います(笑)。ジョージア産のワインはこれまであまり日本で売っていなかったけれど、飲みやすさが受けて、最近では扱うお店も増えてきたのはうれしいことです。

■大相撲春場所でも注目!

――春場所が近づいてきました。関脇にも復帰して、「栃ノ心の今後」が注目されていますね。

栃 そういう空気は十分感じています(笑)。関脇の次は、大関ですよね。これまでは大関を目指すなどということは夢の夢でしたけれど、力士である限り、上を目指すのは当然のこと。しっかり自分の相撲を取って、横綱、大関を2人くらい倒したら、「次」が見えてくるのではないかと思っています。

 御嶽海、阿武咲、北勝富士ら20代の若手有望力士がひしめく中で、高らかに「大関を目指す」と宣言した栃ノ心。栃ノ心の“心”は“日本の心”を意味するという。遠くジョージアから日本へ渡り、国技・相撲を極めて早12年。30歳のこれからの戦いに注目したい。

取材・文/武田葉月(ノンフィクションライター)

栃ノ心剛史(とちのしん・つよし)1987年10月13日、ジョージア生まれ。本名はレヴァニ・ゴルガゼ。身長191センチ、体重170キロ。春日野部屋所属。2006年に初土俵、08年夏場所で新入幕。13年名古屋場所で大ケガを負い、その後休場。翌14年春場所には幕下に陥落するも、同年九州場所で幕内に復帰。18年初場所で初優勝し、春場所では西関脇に昇進。

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