■五輪利権は招致前から動き出す

 なんともキナ臭いが、その裏で暗躍が噂されているのが、あるサッカー関係者だ。この人物は、様々な協会の要職にあり、東京五輪招致にも深く関わったといわれている。「こうした五輪利権は、招致前から動き出すのが常識。言ってみれば視野が広い(笑)。新国立競技場を巡っては、陸連と球技団体の対立構造がありました。また、その球技内でも、サッカー協会と日本ラグビーフットボール協会が対立していましたが、その関係者の影響もあり、結局、人気が高く、スポーツ人口も多いサッカーが勝利した格好です」(全国紙政治部記者)

 敗北したラグビー協会のドンは、名誉会長を務める森喜朗元首相。そんな森氏にとっては、不都合な状況が生じているという。「新国立競技場が五輪後、球技専用となると、すでにある秩父宮ラグビー場と、国際大会を招致できる場所が神宮エリアに2つも存在することになります。そうなれば、老朽化した秩父宮ラグビー場は取り壊すことになりえる。実際、すでにそうした意見が出ています。森さんやラグビーファンにとって、秩父宮ラグビー場はまさに“聖地”。取り壊しを回避するためにも、仮設トラック案は覆したいところです」(前同)

 また実際、仮設を回避する手段は存在するという。「当初の予定地だった神宮第二球場でも、工夫次第でスペースを確保することはギリギリ可能なんです。“仮設以外の選択肢はない”という話が強引に進められた結果、それが既成事実化しただけなんです」(前出の都政担当記者)

 しかもこの間、他からも常設サブトラックを可能にする解決策が示されていた。提案したのは、造園設計事務所連合の一般社団法人「ランドスケープコンサルタンツ協会」(東京都中央区)で、15年10月に内容が公表された。「新国立競技場建設地の南側にある都営霞ヶ丘団地跡地に、常設サブトラックを設けるというもの。かつて新国立競技場のすぐ西側に流れていた川を再生するなど、緑の保全にも配慮しており、この案を高く評価する専門家も少なくありませんでした」(前同)

 もっとも、この団地跡地に関しても、神宮第二球場同様、当初、サブトラックの設置は無理といわれていた。以下、同協会の狩谷達之事務局長に詳細を聞いた。

――提案の団地跡地に、本当にサブトラックは確保できるんですか?

「確かに、当初のザハ案の大きな新国立競技場本体では無理でした。しかし、コンパクトになったことで可能になったんです。東西に8メートルの地形の段差があるので無理という話もありますが、それは、段差を利用して地下駐車場を作り、その上にサブトラックを設けることで解決できます。この常設サブトラックは、平時には一般市民も利用できる緑豊かな多目的スポーツ空間として、震災時には避難場所、広域防災拠点としての機能も確保します。また地下駐車場も、震災時の備蓄庫や救援物質の荷捌きスペースとしても利用できます」

――仮の話ですが、今からここに常設サブトラックを作ることは日程的に可能ですか?

「五輪開催の1年前に完成させないといけないなど、数々の問題があります。しかし、絶対に無理とは言えません」

 また興味深いのが、同案の建設コストの見積もりに絡む話である。「以前、週刊誌からの取材を受けた際、我々の提案がいくらで実現できるのかと問われたんです。そこで建設コストを見積もった結果、約130億円となりました。すると、それまで“100億円かかる”と言っていた、軟式野球場の仮設サブトラックの見積もりが一気に下がり、20~30億円に変更されたんです。驚きましたね」(狩谷事務局長)

 見積もり価格変更の理由は、簡素化した結果だというが、約80億円も値下がりするとはなんとも不可解。「仮設の建設コストと常設のそれが大差ないとなれば、批判は免れませんから、慌てて圧縮したんでしょう。計画当初に、なぜ、これほどまで高額の見積もりがなされたのか。誰かが“うまい汁”を吸うためとしか思えません」(都政担当記者)

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