■これでもういいやと思ったら進化しない

 僕は、終戦で朝鮮半島から母の実家に引き揚げたんです。貧しくてね、生きるのが精一杯だった。小学校の弁当は、サツマイモ。家で焼いて、新聞紙につつんで持っていく。サツマイモのつるをきんぴらにして食べていました。おそらく一生分のサツマイモを食べましたよ(笑)。ただ、いつも、女手ひとつで育ててくれたおふくろが言っていましたよ。気持ちまで、貧乏人になるなって。

 若い料理人には、俺はこんなに苦労をしてきたんだと絶対に話さない。彼らは理解できる年齢ではないから。それを言ってしまうと、僕の負けなんですよ。今も現役でやっているんだから。

 料理人は一生です。終わりがない。これでもういいやと思ったら進化しない。劣化してしまう。今は、オーナーシェフとして、130人ほどのシェフのサポートをしている。彼らは発想が斬新で、やわらか。僕にできないことをできるから、憧れるし、尊敬します。

 僕にないものをもっているから、教えてよと素直に聞きます。全然、恥ずかしくない。すべてを学ぶ精神ですよ。俺はオーナーシェフだという考えでいたら、進歩がない。

 リーダーは、絶対に元気でないといけないと思います。筋トレのバーベルでは、マックス120キロ持ち上げていました。今は80キロかな。2年前は茨城県鹿島市から福島市まで自転車で9時間かけて、150キロ走ったんです。71歳で富士山にも登りました。半端じゃなくキツイ。二度と行かない(笑)。90歳くらいまでは、この体を維持したいね。

 僕はキッチンにいたほうが燃えちゃうんですよ。元気であるかぎり、調理場にいたい。若い人の血をっぱい吸って(笑)。

※取材場所:坂井宏行氏がオーナーシェフを務める『ビストロ イル・ド・レ』(東京都渋谷区渋谷2-15-1 渋谷クロスタワー1F)

坂井宏行(さかい・ひろゆき)
1942年、 朝鮮半島で生まれ、中学卒業まで鹿児島県出水市で育つ。17歳でフランス料理の世界に入る。日本の懐石料理を取り入れた盛り付け、色使いの美しい料理が特徴。フジテレビの料理対決番組『料理の鉄人』に「フレンチの鉄人」として出演し、海外でも大人気に。現在、フランス料理店「ラ・ロシェル」「ビストロ イル・ド・レ」など4店舗のオーナーシェフ。趣味は筋力トレーニング、自転車、ゴルフ、和太鼓、水上バイクなど。

あわせて読む:
・郷ひろみ絶賛、48年間取材拒否の焼き鳥店「S」はどこにある?
・渡辺直美の“家賃”に視聴者ドン引き 「住んでる世界が違う」
・『おっさんずラブ』、林遣都の“せつなすぎる表情”に涙が止まらない!

  1. 1
  2. 2