新垣結衣
新垣結衣

平成アイドル水滸伝~宮沢りえから欅坂46まで~
第5回 菅野美穂と新垣結衣の巻~女優と平成女性アイドル~【後編】

新垣結衣の超絶ふわふわ感

 2000年代、いまの映画やドラマを支える若手女優が大挙して頭角を現した。そのなかで1988年生まれの「ガッキー」こと新垣結衣は高校生役を数多く演じ、制服姿の印象も強い。

 最初、彼女の演じる役柄にはギャル成分が濃かった。『ドラゴン桜』(TBSテレビ系)や『ギャルサー』(日本テレビ系)では見かけからしてギャルだったし、ドラマ初出演作となった特撮もの『Sh15uya(シブヤフィフティーン)』(テレビ朝日系)は舞台がバーチャルなシブヤ(渋谷)で、やはりギャルの匂いがそこはかとなく漂う。ガッキーの存在を世間に印象づけた「ポッキー」のCMに使われたORANGE RANGEの曲にも「コギャル」「マゴギャル」というワードが出てくる。

 そのイメージが変わったのは、主演の長瀬智也の相手役として、二つ結びの似合う心優しい女子高生役を演じた2006年の『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(日本テレビ系)あたりからだろう。そして今回、注目してみたいのが続く2007年に出演した『パパとムスメの7日間』(TBS系)だ。

 このドラマは、いわゆる入れ替わりものである。舘ひろし扮する会社員の父親と新垣結衣扮する女子高生の娘の人格がふとしたきっかけで入れ替わってしまったために起こる騒動がコメディタッチで描かれる。

 アニメ映画『君の名は。』も記憶に新しい入れ替わりものだが、さかのぼると1983年公開の大林宣彦監督による映画『転校生』がある。尾道の美しい街並みを舞台に尾美としのりと小林聡美が扮する中学3年生の男女の人格が入れ替わる。名作の誉れ高いが、それは作中の思春期ならではの悩み、淡い恋心が誰にも思い当たるからである。思春期はいつか終わるもの、だからこそ懐かしくかけがえがない。そういう思いが自然に胸を去来する。

『パパとムスメの7日間』には、この『転校生』へのオマージュ場面がある。入れ替わったことに気づいた舘ひろしは、新垣結衣に対して一緒に神社の階段から転がり落ちようと提案する。『転校生』では、そうして元に戻るからだ。だが実際そうした二人は結局ケガをしただけに終わる。

『イグアナの娘』の後で、「いつかは終わる思春期の物語」はもう難しい。この“失敗”のシーンはそう暗示しているように私には思える。そもそも『パパとムスメの7日間』は、親子の物語だ。だから、『イグアナの娘』と比べてみるのが自然だろう。

『パパとムスメの7日間』は、コミュニケーション断絶状態にあった父娘が、それまで知らなかった相手の世界を体験することによってコミュニケーションを取り戻す物語だ。

 ただそうは言っても、ここでのコミュニケーションの断絶は、『イグアナの娘』の母娘に比べればまったく深刻なものではない。年頃の娘が父親のことを毛嫌いするのはむしろありふれたことだ。だから入れ替わった二人は慣れない環境をぼやきながらも、会社や学校で父親や娘のために奮闘し、結局うまくやりおおせてしまう。

 もちろんそこはコメディだからということではあるのだが、一言で言えば『パパとムスメの7日間』の思春期は圧倒的に軽い。そしてその軽さが、新垣結衣独特のふわっとした軽やかさにぴったりフィットしている。いくつになっても変わらないその超絶のふわふわ感こそは、アイドル女優・新垣結衣の最大の武器だ。

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