『43回の殺意』が最有力? 傑作ぞろい「ノンフィクション本大賞2018」を占う!の画像
『43回の殺意』が最有力? 傑作ぞろい「ノンフィクション本大賞2018」を占う!の画像

 全国の書店員が「いちばん売りたい本」を選出する「本屋大賞」。これまで、リリー・フランキー『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』や、湊かなえ『告白』など、数々の名作を大賞作品として送り出してきた。

 受賞作の多くはドラマ化・映画化され、次々ヒット。出版不況の中、盛り上がりを見せる同賞には毎年注目が集まっている。

 そして今年、本屋大賞とYahoo!ニュースがタッグを組んで、ノンフィクション作品を対象とした賞が新設された。その名も「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」。大賞の発表は11月初旬の予定だ。

 この賞では、2017年7月1日から2018年6月30日の間に日本語で出版された作品の中から、書店員による投票でノミネート作品が選出されるが、今回は、発表されたばかりの最終ノミネート作10作品を“一気読み”。大賞候補を占ってみよう。

 まず、もっとも注目したいのは、『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(石井光太/双葉社)だ。

 この本は、2015年2月20日、神奈川県川崎市の多摩川河川敷で13歳の少年が殺害された事件のルポルタージュ。インターネットを中心に巻き起こった犯人捜し、加害者家族、さらには遺族にまで及んだ中傷、献花でいっぱいになった河川敷の映像など、当時の狂騒をご記憶の方も多いだろう。多くの人々を何度も傷つけたこの事件は、なぜ起こったのか。

 同書は、被害少年・加害少年とともに遊んでいた友人たちの証言や、事件現場となった河川敷を訪れる人々の善意、息子を失った父親へのインタビューなどから、その深層を浮かび上がらせる。

 そこにあるのは、少年たちはもちろん、周囲の大人たちも含めて、誰もが抱えるままならない日常に焦燥や葛藤を抱き、よりどころを求める姿だ。

 この本は、かけがえのない命を奪った事件の発火点が、誰にでも起こりうるという現実を突きつける。著者の石井光太氏は、国内外の貧困、災害、事件などをテーマに多くの著作を持つが、少年事件のルポルタージュはこれが初となる。

 悲劇を繰り返さぬよう、事件や事故をテーマにしたノミネート作品は他にもある。

『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(松本創/東洋経済新報社)は、妻と実妹を失った遺族と、事故後にJR西日本社長に就任した山崎正夫氏が、相反する立場から巨大組織改編のために闘った足跡を描く、再生の書。

 そして『日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る』(青山透子/河出書房新社)は、1985年に起こった日航ジャンボ機の御巣鷹山墜落の真実に迫っている。

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