……と、なによりこの設定が抜群。黒澤明『七人の侍』だって、面白いのは前半のさむらい集めパートですからね。それに、千葉といえば、散らばった8人の仲間を集める『南総里見八犬伝』のお膝もとだから、メンバー集めの舞台にはうってつけ。というか、そもそも高山一実自身が千葉県南房総市出身なので、これはもう八犬伝リスペクトでしょう。「『トラペジウム』は女性アイドル版八犬伝である!」と言えなくもない。

 そんなわけで(?)、ゆうが最初に赴くのは、南のお嬢さま高校、聖南テネリタス学院。テニス部で見つけた華鳥蘭子は、縦巻きロールにリボンをつけた、上から目線のものすごい美女。まさに『エースをねらえ!』のお蝶夫人そのままだが、ただし、テニスはめちゃくちゃヘタだった……というあたりが可笑しい。

 西は、西テクノ工業高専の大河くるみ。昨年の高専ロボコンに出場し、その超絶美少女ぶりでブームを巻き起こしたロボット研究会のアイドルだが、みずからプログラムを組む理系少女でもある(高専の美少女を登場させるのが著者の夢だったとか)。

 北は、地元近くの書店で再会した小学校時代の同級生、城州北高の亀井美嘉。昔は地味だったのに美しく変身、しかもボランティア活動に励んでいる。こういう面があると、デビュー後に経歴を掘られたときにポイントが高い――としっかり計算する策士・東ゆう。

 ふたたび著者インタビューによれば、「私自身がアイドルになったあとで、“アイドルになれるんだったら、もっとこういう生き方をしておけば良かった”と思ったことを、東には全部させてみたんです」という。つまりこれは、“すでにアイドルになった自分”から逆算して、理想のアイドル人生を高校1年からやりなそうとする、アイドル高山一実にとってのリプレイもの(人生2回め)とも読める。

 アイドルという存在がまわりからどう見られるかを知り抜いているからなのかどうか、もうひとつ、『トラペジウム』で面白いのは、スカウトする相手に警戒されないよう、アイドル活動の野望については、主人公がいっさい口に出さないこと。「いっしょにアイドルやろうよ!」と仲間を集めるのではなく、目的を秘密にしたままひそかに近づき、まず友だちになって、チームを形成しようという隠密作戦なのである。この緻密な計算がうまく行きすぎたり、もろくも崩壊したりする、そこから絶妙のユーモアが生まれてくる。

 もっとも、最強の4人組アイドルユニットが誕生したとしても、みんなが同じ夢を抱いているわけではない。はたして4人の美少女たちの運命はいかに?

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