前出のインタビューによれば、題名のトラペジウムとは、オリオン大星雲の中心近くにある散開星団の名前からとったものだそうだが、trapeziumという単語は、イギリス英語では「台形」、アメリカ英語では「不等辺四角形」を意味する。辺の長さがばらばらの四角形は、最終的にどんなかたちに落ち着くのか。
こういう小説だと、きれいに着地させるのはなかなかむずかしそうだが、ラストも鮮やかに決まっている。アイドル部分を抜きにして、一種のプロジェクトものとして読んでも楽しめる1冊。
ちなみに、男性アイドルでは、NEWSの加藤シゲアキがすでに5冊の小説単行本を出し、作家としても大活躍中。
また、この10月には、元SKE48の松井玲奈が集英社〈小説すばる〉11月号に初の短編『拭っても、拭っても』を発表し、話題になったばかり(噂によると、この号は通常号とくらべて2倍以上の売り上げだったとか)。こちらは、潔癖症の恋人にふりまわされるアラサー女性の悩みを描いた大人の小説で、デビュー作とは思えない文章力が際立つ。松井玲奈の場合は、実力派のプロ作家がひしめく激戦区にあえて身を投じたかっこうだが、対する高山一実は“等身大の自分”を投影して長編を書き上げた。
考えてみれば、現役のトップ女性アイドルが長編小説を刊行するのは、もしかしたらこれが史上初めてかもしれない……と、そういう側面に話題が集中するのは当然だが、そんな事情を抜きにしても、この『トラペジウム』、青春小説好きにはぜひ一読をおすすめしたい。
大森望の極楽アイドル沼
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