<アイドルがくれた自分自身への肯定を、自分の手で消してしまわないように>

 こんな風にアイドルは、それぞれのわたしたちに、自分自身を、そして自分自身の毎日の暮らしを少しだけ愛おしいものに感じる力をくれます。

 仕事や人間関係でうまくいかないことが重なって、どんなに自暴自棄になってしまうときでも、好きなアイドルが、「アイドル」としてわたしたちの前に現れてくれるので、わたしたちはちゃんと自分の幸せの軸に戻ってくることができます。ああ、いま好きなものがちゃんと自分の好きなものだよな。そして、明日もあさっても、その先もずっと続く毎日のことを、少しだけがんばろうかなと思わせてくれます。

 そうやってアイドルがくれた人生への肯定感を、わたしたちは自分自身の手で消してしまってはいけないと思うのです。

 たとえば、ズルをすることを想像します。

 どこか後ろめたい気持ちや、バレなくてよかったと胸をなでおろす気持ち、万が一それが知られてしまったとき。想像すればするほど、自分のことがますます嫌いになってしまいそうです。わたしたちがアイドルから受け取ったのは、「ちゃんとそれぞれの人生は愛おしいものだ」ということだったはずです。

 だから、笑顔でむかえてくれる彼女たちに、そして、大きなステージでも小さなステージでも変わりなく、歌とダンスで励まし続けてくれる(実際はわたしたちが勝手に励まされているだけとも言えますが)彼女たちに、恥ずかしくないような自分でいたい。

 好きなアイドルが大きなライブハウスでワンマンライブをやると決まったときに、少しでも良い自分で応援しなくては! という気持ちになり、毎日顔パックをしておやつをやめて、ともだちとは「いっそブライダルエステでも行こうか」という話しまでしました。結局エステは行きませんでしたが、特典会では、少しだけ痩せて、少しだけつるつるになった肌の自分で、いつもより、ちょっぴり長く目を合わせる勇気がもてました。

 なにも言えなかったわたしにも、「ちゃんと伝わっていますよ」と笑いかけてくれたあの子は今日も、わたしたちの人生をちょっとだけ宝物のように感じさせてくれるのです。

愛せない日常と夜中のイヤホンで流れるアイドル

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