平成アイドルは自らの「人生そのもの」が続いていくさまをさらけ出した 平成アイドル水滸伝 最終回 結びの巻~アイドルはすべてを肯定する【前編】の画像
※画像はモーニング娘。のシングル『I WISH』より

平成アイドル水滸伝~宮沢りえから欅坂46まで~
最終回 結びの巻~アイドルはすべてを肯定する【前編】

 ここまで毎回二組の女性アイドルを選び、列伝的に平成アイドル史を振り返ってきた。おかげさまで連載も無事今回が最終回。まだまだ取り上げたかったアイドルもいるが、ここはいったんの結びとして「平成女性アイドルとはなんだったのか」について最後に考えてみたいと思う。

■恋愛よりも人生

 2000年の9月、モーニング娘。がリリースしたのが『I WISH』である。メジャーデビューからちょうど10枚目となる節目のシングルだった。

 この楽曲は、一言で言うと「人生賛歌」だ。「人生って すばらしい~」と繰り返されるサビのフレーズ。MVでもモー娘。のメンバーたちがコスプレ風にさまざまな人たちに扮し、それぞれの人生の出会いから生まれる喜びをミュージカル調で表現している。口ひげの紳士役の加護亜依などはまるでチャップリンのようでユーモラスだが、次々とアップになるモー娘。のメンバーたちが歌い上げる姿は、こちらに訴えかけるものがある。

 この『I WISH』の前後のモー娘。のシングル曲を見てみよう。

 モー娘。が国民的アイドルの地位を確立した代表曲『LOVE マシーン』の発売が1999年9月。それから『恋のダンスサイト』『ハッピーサマーウエディング』と続いた後に発売されたのが『I WISH』で、その次が『恋愛レボリューション21』となる。いずれもモー娘。ファンならずともよく知っているヒット曲ばかりだろう。

 昭和から平成を通じ、アイドルソングと言えばやはり恋愛ソングが定番である。モーニング娘。も例外ではない。それはいまあげた一連の曲を見ても明らかだ。だがだからこそ、それらのあいだに挟まったストレートな人生賛歌『I WISH』は異彩を放っている。

 とはいえ、恋愛と人生は必ずしも対立するものではない。恋愛もまた人生の一部である。人生が喜怒哀楽の積み重ねだとすれば、恋愛がその大切な一場面であることは間違いないが、決してすべてではない。

 モー娘。が2001年7月に発売した『ザ☆ピ~ス!』には、それと同じ人生観が垣間見える。『I WISH』が大きく振りかぶった人生賛歌とすれば、この楽曲は小さな喜びの発見による人生賛歌だ。

 「HO~ほら行こうぜ そうだ みんな行こうぜ」というラップ調の勇ましい呼びかけから始まるこの曲だが、歌詞で綴られるのはいかにもありそうな日常のひとコマだ。「意味ないけど コンビニが好き」「デリバリピザ いつも悩む LかMか」などなど、誰にも思い当たりそうな日常の断片が連ねられていく。

 もちろんそのなかには恋愛についてのこともある。「好きな人が 優しかった」「うれしい出来事が 増えました」。ただそれも、この曲のなかでは「道行く人が 親切だった」ことと同列の出来事として歌われる。

 恋愛も大事だが、それはむしろ数ある人生の喜びのひとつにすぎない。当たり前のことのようだが、「恋愛至上主義」の象徴のような女性アイドルが高らかにそう歌うのは、ある意味画期的なことだった。21世紀のちょうど始まりにモー娘。が『ザ☆ピ~ス』という楽曲を歌ったことは、女性アイドルが到達したひとつの境地として記憶されておいてよいことだろう。

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