■コメディをやるというのは、一番いばらの道なんだ
今回の新作『スペシャルアクターズ』の主人公は、極限まで緊張すると気絶してしまう“売れない役者”なんですが、演じているのは、この10年で3本しか仕事をしていない、売れない役者の大澤数人です。彼と出会ったのは、キャストを募るオーディション。1500人の応募者の中には美男美女も、演技がうまい人もたくさんいたけれど、そういう人たちだけで映画を作ったら、他のメジャー作品と一緒になってしまう。この作品では、そうじゃない闘いをしたかったんですね。
だから、僕が“この人をもっと見たい、撮りたい”と感じた15人を最終的に選んだ。彼らとともに、フィクションとドキュメントが混じり合うような映画を作ろうと思いました。
そして、彼らとスタッフに支えられて、やっと『カメ止め』の呪縛を乗り越えることができました。主人公を演じた大澤数人は、実際に現場で主役の重圧に気絶しそうになりながら芝居を続けていました。だから、これは彼のドキュメントでもあるんですよね。
そうやってできあがった作品は、またも予測不能のコメディです。僕は、何かのメッセージを伝えるための映画じゃなく、映画の面白さが真ん中にあるエンターテインメント作品を作っていきたいと思っています。それも、サスペンスやミステリーではなく、コメディをベースにして。実は、コメディをやるというのは、一番いばらの道なんだと思うんです。笑えるかどうかは、ごまかせないですからね。難しいんですけど、だからこそやりがいがあるし、チャレンジしてみたいんです。
とにかく笑ってワクワクしてもらえる映画を本気で作る。僕が言いたいことは、その中ににじみ出るくらいでちょうどいい。
僕には2歳半の息子がいるんですけど、毎日ささいなことで笑ってるんですよ。笑って、食べて、寝る。人間にとって、それが一番大事なことだと、日々、息子から教えられている気がします。
上田慎一郎(うえだ・しんいちろう)
1984年、滋賀県生まれ。2009年に映画製作団体「PANPOKOPINA」を結成し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。15年、オムニバス映画『4/猫』の1編『猫まんま』の監督で商業デビュー。18年『カメラを止めるな!』が興行収入31億円を超えるヒットを記録。19年8月、中泉裕矢・浅野直也との共同監督作『イソップの思うツボ』が公開された。
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