六角精児・自己肯定の人間力「つらい思いをしたぶん、人に優しくなれた」の画像
六角精児(撮影・弦巻勝)

 今回主演を務めさせてもらった映画『くらやみ祭の小川さん』は、56歳でリストラされた男の、再生の物語です。この映画のキャッチコピーは“人生まだまだ捨てたもんじゃない”なんですが、その感覚が、最近になってよく分かってきたような気がしているんです。

 僕の20〜30代は、本当にロクなことがなかった。誰からも必要とされてない感じがしていました。でも、40代に入って出演作品が増えて、自分の芝居を人に見てもらえることが多くなったとき、やりがいが少しずつ出てきた。そこから“仕事の楽しさ”をあらためて発見できるようになったんですよ。それまでは、芝居で自分が楽しければ良かったけど、作品を面白くする楽しさみたいなものが分かってきた。今、僕は57歳ですが、これはこの年齢になったからこそ気づけたことかもしれません。

 実は40代になって仕事が増えたのは、20〜30代の頃の僕の芝居を見ていてくれた人が、ありがたいことに声をかけてくれたから。だから当時、お金にならない芝居でも一生懸命に打ち込んでいたことが、今振り返ってみれば、良かったなと思いますよね。

 人生を経て分かったことは、他にもあります。僕は若いとき、ギャンブルにハマっていました。次に何が起こるのか分からないものが好きで、パチンコ、競馬、競輪、ボートレースと、ギャンブルと名のつくものはほとんどやりました。ギャンブルって、究極を言えば、勝っても負けても実は一緒。勝ったときは天に昇る気持ちになるけど、負けて何もかもなくなったときも、それはそれで“快感”がある。

 僕は30代の頃、ホントに持っているモノを全部賭けて、大きな借金を作っちゃった。「もうダメかもな」と思いました。でも、ちょうどその頃に、仕事が少しずつ入ってくるようになったんですね。それでなんとか踏みとどまることができた。それからコツコツと借金を返しはじめて……けっこう大変だったんですけど、完済して。そこからいろいろなことが変わっていきました。

 やっぱり「負の財産」はちゃんとクリアにしないと、次には進めない。ズブズブにギャンブルにハマっていた頃は、どこか感覚がニブっていたんでしょうね。

 離婚の経験も大きかった。僕は“バツ3”ですが、離婚って本当に大変なんです。エネルギーも使いますし、精神的にもすり減っていく。でも、何度もつらい思いを体験した分、他人に優しくなれましたよね。

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