■「ふだんやりたいけどできないことをやってください」
僕が映画を作るときはいつも、俳優やスタッフに「ふだんやりたいけどできないことをやってください」と伝えます。
今回の現場では、今のテレビや映画でNGとされている言葉をリストにして、俳優の方々に渡しました。脚本はあってないようなもので、「ここに書いた言葉を、だんだん多く口にしていってください」と。劇中ではこれらの言葉にあえてピー音をかぶせていますが、エスカレートしていくと、台詞はピー音だらけになるわけです。そこが面白いと思ったし、現在のコンプライアンス的な世の中を象徴できるのではないかと考えたんです。
監督としては、この世界に入ったときの好奇心みたいなものを、一番味わえる現場を作りたい。
俳優としては、僕の個人的な理由で現場を止めないように――作品の歯車のひとつである自分が、その動きを止めてはいけないと心に置いています。
今年は、幸いなことに数多くの作品に俳優として参加させてもらっています。僕はネガティブな人間というわけではありませんが、すべてがうまくいく可能性を思い描いてしまうと、それがかなわなかったときに耐える体力がない(笑)。だから、俳優としての自分は、“儚いもの”だと思っていたほうがいいような気がしていますね。
齊藤工(さいとう・たくみ)
1981年生まれ、東京都出身。俳優、映画監督など多彩な才能を発揮。4月からはドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)に出演。6月には出演映画『騙し絵の牙』が公開される。21年公開予定の『シン・ウルトラマン』では主演を務める。「齊藤工」名義で監督も務め、『半分ノ世界』『blank13』『MANRIKI』といった数々の受賞作品を残している。また、写真家としても活動し、ルーヴル美術館に作品が展示されるなど高い評価を受けている。
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