■目尻、眉尻を見ている
ファンがアイドル写真集に求めているもの。これを考えることで、アイドルと写真の関係性を深掘りしていきたいのだが、その前に、女性ファンの写真集の読み方に触れておきたい。先ほど紹介したYahoo!ニュースのインタビューの中で、20代女性が白石麻衣のことを「憧れ」と表現していたことは興味深い。このことは、女性が共感を覚えるような存在だということを意味しているからだ。
また、「憧れ」という感情はかならず模倣を生む。『パスポート』が新しいニーズとして女性の「憧れ」を刺激するのだとすれば、読者の次の行動は、ラストコンサートのチケットを購入することよりも真似ることに向かうことになる。
写真集の熱心な読者はお気に入りの写真をこんな感じで眺めることだろう。「ネイルカラーは全体的にナチュラル系のセルフネイルだ」とか。「リップはグロスを足してオーバーリップ気味にするとほどよくセクシーだ」とか。こうして、口元、目尻、目頭、眉尻といった細かいパーツにまで熱い視線が注がれていく。
だが、真似ることだけが目的であればファッション誌やビューティ誌の方が、着ている服がどこのブランドの服で、どのメイク・アイテムを使用したかなどの情報も具体的に手に入る上、その時々のトレンドも追えるのだから、わざわざ写真集を買う必要などないことになってしまう。
あえて写真集を手元に置いておきたいのは、表面的に読み取れる情報以上のものがあると感じ取っていると考えた方が自然である。だからこそ、何度も眺めては閉じてまた眺めることのできる写真集が必要なのである。
アイドルの肖像 —— 写真集から考える
- 第1回 写真論からアイドル写真集を考えてみると?アイドル写真集における「アイドル」「カメラマン」「ファン」の三角関係
- 第2回 いま改めて『乃木坂派』を読む坂道グループ初の写真集『乃木坂派』に見るアイドルの「リアル」と「演出」の交錯
- 第3回 白石麻衣『パスポート』前編 白石麻衣『パスポート』女性にも支持され「着衣で最も売れたアイドル写真集」となった意味
- 第4回 白石麻衣『パスポート』後編 白石麻衣『パスポート』に見るアイドルでいつづけることの難しさ
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