映画『水上のフライト』に注目・上野耕路の人間力「映画音楽は、担当する音楽家だけが喜ぶような作品であってはいけない」の画像
上野耕路(撮影・弦巻勝)

「映画音楽」は、撮影した映像に合わせて作るだけではありません。脚本ができた段階で、監督と打ち合わせ、撮影とほぼ並行に近い形で進めることも多いです。作品の内容からメインテーマなどのデモを作ってスタッフと確認し、撮影が終わって編集がロックしてから、それらの曲の部品を使ってシーンごとに組み立てていくという作業ですね。

 僕が映画音楽を作るときには、必ず脚本を全部読みますし、途中でシーンのスチール写真を見せてもらって、登場人物の雰囲気や作品の色をイメージするようにしています。

 今回手がけた『水上のフライト』という作品は、中条あやみさんが演じるパラカヌー(障がい者のカヌー競技)選手の成長物語です。

 水上のシーンが多いので、音楽のムードとしては、青空や水の爽やかなイメージがまずあって。その一方で、事故に遭って屈折していた主人公の心境が、だんだん変わっていく過程を、曲でうまく表現できればいいなと思って作りました。

 結局、映画は監督のもの。だから映画音楽も、担当する音楽家だけが喜ぶような作品では良くない。そこを逸脱しないように心がけています。

 今は映画音楽を多くやっていますが、そもそも10代の頃はジャズピアニストになって、ビッグバンドのアレンジができるようになりたいと思っていたんです。

 ところが、大学在学中に学外でいろいろな刺激を受けてしまい、パンクやニューウェイブのバンドを組むように。そして1981年から、『ゲルニカ』という音楽ユニットの活動を始め、当時YMOをやっていた細野晴臣さんのプロデュースでアルバムをリリースしました。

 ゲルニカは、曲の世界と、衣装やジャケットなどのビジュアルとをトータルでコーディネートしていました。それが“当時の日本ではまだ珍しかった”とよく言われるんですが、その頃、僕が好きだった海外のアーティストはみんなそうだった。だから、「音楽をやる」ということは、そういうものだと思っていました。今、考えてみると、トータルコーディネートというところが映画に参画することと、つながっている部分があるかもしれませんね。

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