■潤之介と奈未、対比する二人の仕事への向き合い方

 潤之介は、いつになるかは決まっていないが、カメラマンを辞めて大手企業である宝来グループの後を継ぐことを周囲に公言している。これは優しい人柄がそうさせているように感じつつも自分に言い聞かせているようなところがあって、個展を開くまでの実績や仕事への思い入れもあるのに、カメラマンとして生きていくことを諦めているのだ。

 奈未が、潤之介が撮影した作品を『ヘンな写真だった』とクスクス笑うのだが、奈未の『ヘン』とは面白い写真だという意味。潤之介が『ヘン』と言われ気にしたのは、自分に自信がないからだろう。父親が宝来グループのトップだから今の仕事を依頼されているのではないかと複雑な思いを抱いている上に、幼少から父の期待を一身に受けていたのは姉の麗子(菜々緒・32)であり、家業を継ぐのは自分ではないと感じている。まさに個展で展示していた『蝉の抜け殻』のような状態でカメラマンの仕事をしているのだ。

 蝉の抜け殻が何匹も集まった、それも一定方向に整列したように並んでいるカットは『長男だから後を継ぐ』という古い習性に従うかのようにも感じられて、少し悲しくなった。

 一方の奈未は、上司からの指示をひたすらこなすだけの毎日だったが、仕事とは何かを考えるようになる。スケジュール上ありえない特集ページの原稿差し替えに何か意味があると感じて、原因を探ったり同僚に働きかけたりと大きな成長を見せている。仕事は人柄が出るのは言うまでもないが、奈未の分からないなりに一生懸命な姿は見ていて気持ちがいいし、自分の経験からくる固定観念で慣れた仕事をこなしている人の心を打つものがあった。

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