『バレッタ』は、乃木坂46が数多く制作する全編ドラマ型のMVのひとつである。時折、楽曲が物語のBGMへと後景化するかのような瞬間さえある、このスリリングなドラマ型MVの中で、手塚は悪役となる“マエストロ”を、独特のアクを前面に打ち出して印象的に演じている。

 その手塚はかつてナイロン100℃の前身である劇団健康に参加、そののちナイロン100℃の旗揚げにも加わった。20代半ばから30代はじめの時期を健康およびナイロンで過ごし、KERAが自身の父をモチーフにして書いた初期の名作『カラフルメリィでオハヨ~いつもの軽い致命傷の朝~』の初演時には、手塚が演出を担当している。

『バレッタ』の際にはすでにベテラン俳優の域に達していた手塚は翌2014年、乃木坂46「真夏の全国ツアー」ライブ中の映像内に登場、『バレッタ』MVでの“マエストロ”を再び演じる。またさらに翌年の2015年、今度は乃木坂46主演ドラマ『初森ベマーズ』(テレビ東京系)にも参加、グループとの共演が相次いだ。

■個人PVに登場する外部の俳優たち

 ところで、手塚はナイロンを離れてのちの2001年にアントン・チェーホフ作、岩松了演出の舞台『三人姉妹』に出演している(『三人姉妹』も後年、乃木坂46の演劇志向にとって重要な実験的試みとして記憶される)。この作品で手塚と共演し、三女・イリーナを演じた緒川たまきもまた、KERA作品にゆかりが深い俳優の一人である。2007年にナイロン100℃に客演を果たして以降、数多くのKERA作品に参加し続けている。

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