■「今、やるべき作品だ」と感じた
舞台の演出は、オーケストラの指揮者に似ています。役者さんというさまざまな楽器で、いかに最高のハーモニーを作り上げていくか。逆に、幕が開いてしまえば、演出家にできることはそれほどありません。あとは、役者さんとお客さんが作品を育ててくれます。
ちなみに、大河ドラマの場合は、“リレー”という感じでしたね。『麒麟がくる』では4名の演出家がいましたが、どうしても演出家の個性がありますから、回によって色が変わってしまう。でも、それぞれが担当した回をお互いがリスペクトし合い、以前の回での演出を踏まえて、担当回の描き方を考えるんです。
数回前の登場人物の言動が、自分の演出回に大きく関わってくることもあるし、以前の回での表現をオマージュ的に取り入れることもある。前の演出家から受け取ったバトンを次に渡すまで、どんなふうに走るのか。演出家同士でコミュニケーションをとりながら、そのことを考える現場でしたね。
すごいなと思ったのは、大河ドラマは観てくださっている方が圧倒的に多い。僕はテニスをやるんですけど、あるテニスコートに行ったとき、「一色さんって、麒麟の……?」と声
をかけられてビックリしました(笑)。これまでそんなことはありませんでしたからね。
僕は『麒麟がくる』の脚本を最初に受け取ったとき、「今、やるべき作品だ」と感じたんですが、次の『モダンボーイズ』もそうです。
この作品は昭和初期の浅草で、夢と自分の居場所を、迷いながらも明るく見つけていくという物語です。脚本を読んだときに、今の社会とシンクロする部分がたくさんあって、とても元気をもらえる作品だと感じました。令和の今でも、いや、今だからこそやる価値がある。そう信じて、みんなで進んでいます。
一色隆司(いっしき・たかし)
1967年6月27日生まれ。大阪府出身。1991年にNHKエンタープライズに入社。ハイビジョン関連の事業や番組に従事した後、ドラマ部へ異動。『坂の上の雲』『紙の月』『精霊の守人』や大河ドラマ『麒麟がくる』(すべてNHK)などを手がける。舞台の演出家としても活躍し、2019年の『最貧前線』では主演の内野聖陽が文部科学大臣賞を受賞。他にも代表作として『令嬢と召使』(2016年)、『人形の家』(2018年)がある。
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