新谷学「週刊文春編集局長」は雑誌編集者よりも文藝春秋という会社を背負うことを選んだの画像
柳澤健著作の『2016年の週刊文春』(文藝春秋)

柳澤健『2016年の週刊文春』著者インタビュー 6/7

 『2016年の週刊文春』は文藝春秋という会社と『週刊文春』という雑誌を軸に、日本の出版ジャーナリズムを描き切った大作だ。主人公は花田紀凱と新谷学、2人の『週刊文春』編集長。著者の柳澤健は、2人の間の世代の文藝春秋社員で、彼らとともに仕事をしてきた編集者だった。彼が見た2人の天才編集者の実像とは――。7回にわたって語ってもらった。

――本書のもう一人の主人公である新谷学さんは、2010年代の、いわゆる「文春砲」と呼ばれるようになった『週刊文春』の立役者ですが、その凄さはどこにあるのでしょうか。

柳澤:目の前の仕事にかける熱量が半端じゃない。若い頃からそうだった。最初に会ったのは『Number』で、彼は新入社員で配属されて3年目だったけど、編集部を完全に掌握していたわけ(笑)。編集長も周囲の編集者もみんな新谷の言いなり(笑)。本当に優秀だし偉くなると思ったから「新谷に怒られないように頑張ろう」と私は思ったし、実際に本人の前でもよく言ってた(笑)。

 新谷はすごくオシャレなんだよね。ファッション誌の編集長がインタビューに来たときに、ツイードのスーツを一分の隙もなく着こなしている新谷を見て「こんなにオシャレな人は見たことがない」と言ったほど。新谷は学生時代にブルックス・ブラザーズで何年もバイトを続けていたから、「卒業後はぜひウチで」と誘われたけど、モンティ・パイソンみたいなテレビ番組を作りたくてテレビ局を受けた。結局、最終面接で落ちて文春にきたんだけど、新谷ならテレビ局に行っても充分にやれただろうね。

 新谷は花田さんのようなコピーライティングの天才ではないけど、人に可愛がられる力がとんでもなくて、誰よりも深く広い人脈を築き上げた。普通の編集者のコネクションの規模がコーヒーカップくらいとすると、新谷は喫茶店の部屋全体くらいはある。政界、財界、芸能界、ブラックな社会に至るまで、あらゆる業界に広くて深い人脈を張り巡らせている。取材者にとって人脈はすべて。情報は各界のトップが持っている。自民党のトップ、山口組組長、バーニング社長、ジャニーズ社長と繋がっていれば、記事のネタには困ることはないけど、普通はそんなことはありえないでしょ? でも、新谷の場合はそこまで行ってしまう。偉い人が相手でも臆さずに平気で食い込んじゃうんです。安倍晋三だろうが菅義偉だろうが関係ない。安倍晋三からは手記を3回取ってるし、菅義偉とは何十回も飯を食ってる関係だろうからね。

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