松坂桃李、超異色NHKドラマ『今ここにある危機』を成立させた「主張ゼロ俳優」の凄みの画像
松坂桃李

 始まる前から名作の予感がムンムンするドラマが多かった、2021年の春クール。この時期はクライマックスに向けて動いているが、おおむね期待していた通りのパワーを感じている。「この時期によくぞここまで!」と感動するぐらいだ。長引くコロナ禍、どれだけ励まされ、癒やされたことだろう。嗚呼、ドラマ最高!

 そのなかでも時代とリンクし、衝撃度が高かったのが『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK)。全5回と短く、5月29日に最終回が放送されたが、なんというか後味がすごい。まだ引きずっている。

 深く物事を考えず、高い好感度を守ることだけを気にしていたイケメンアナウンサーの神崎真(松坂桃李/32)。帝都大学の広報課に転身。彼が学校に揉まれて、成長していく物語だと勝手に踏んでいた。いや、それは外れてはいなかったが、ここまで挑戦的な作品とは思わなかったので、度肝を抜かれた。

 第3話ぐらいまでは、大学の隠蔽体質についてのブラックコメディという感じ。ところが、第4話の「蚊アレルギー」あたりから、帝都大学が日本、蚊の流出騒ぎがコロナ禍、次世代博がオリンピックと重なり、SNSを中心に話題にもなった。もう多くの記事で書かれているワードだが、敢えてここでも書かせてもらうと、タイトルそのまま、私たちの「今ここにある危機」を描いたドラマだったのだ。

 ただ、見ていて救われたのは、主張のない神崎だからこそ、あのクセモノ教授たちに入り込み、立ち回れたとも思えたことだ。彼がこだわりまくった「好感度」は決して無駄ではなかった。最後、クレーム電話に応対し、ひと息ついたスタッフに、神崎が笑顔でお菓子を渡しているシーンがとても心に残っている。

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