■怪談とか不思議な出来事は、私にとって特別なものじゃない

 そして何日かして、朝起きると、ふとんの上におばあちゃんがピシッと座っている。「どうしたの?」って聞くと「息子が死んだ」と言ったんです。これはやっぱり変だと、わけを聞いてみると、「息子が私にあいさつに来た。空の境目が見えない真っ青な海の船の上で、海軍の服を着た息子が、右手に拳銃を持って、私に手を振っていた」と。その後、ドンと音がしたそうです。

 数日後、おじさんが亡くなった知らせが来ました。おじさんの最期は自決で、おばあちゃんが見たのと同じ光景だったようです。そして、その時刻も、おばあちゃんが「死んだ」と言っていたのと同じでした。きっとおばあちゃんが“誰かが来た”って騒いだのは、死亡届を持ってきた男が見えていたんでしょうね。

 こんなふうに、怪談とか不思議な出来事は、私にとって特別なものじゃなく、日常の中に当たり前にあったんです。

 怪談って、夏のものだと思われがちですけど、本来は冬に語られたんじゃないかと思うんですよ。

 昔の北国では、秋になると田んぼや畑の仕事ができなくなって、父親は出稼ぎに行くわけです。そうすると、残ったおじいちゃん、おばあちゃん、子どもは一つの部屋に集まって冬を過ごす。テレビなんてない時代ですから、年寄りが語る怪談が唯一の娯楽だったんですね。毎年同じ話で、子どもたちも展開が分かっている。それでも、やっぱり楽しい。それが「怪談」だと思うんです。

 長年続けてきた『怪談ナイト』も今年で29年。最近は、目はショボショボするし、耳も遠くなってきたけど、皆さんが喜んでくださる限り、怖くて楽しい怪談を語り続けていきたいですね。

稲川淳二(いながわ・じゅんじ)
1947年、東京都生まれ。桑沢デザイン研究所専門学校卒業後、工業デザイナーとして活動。1996年には通商産業省選定グッドデザイン賞「車どめ」を受賞する。そのかたわらでは、タレントとしてテレビの情報番組やバラエティ、ドラマなどで活躍。独特のキャラクターで人気を博す。また、怪談家としても活動し、全国津々浦々を巡る『稲川淳二の怪談ナイト』で披露した怪談は約500話にものぼる。

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